【攻めのDX】生成AIは「複数を使い分ける」時代へ。三井住友銀行がGemini導入で目指すマルチLLM活用戦略
大手銀行グループの中でいち早く従業員専用AIアシスタントツール「SMBC-GAI」を開発するなど、金融業界のシステム領域において前例のない挑戦をし続けている三井住友銀行。前回の記事で紹介した「止まらないインフラ(Google workspaceの導入)」という強固な土台を築いた彼らが、次に見据えるのはAIの圧倒的な活用です。今回、行内全体へ新たに導入されたのは、Googleの最先端AI「Gemini」。
既にSMBC-GAIやCopilotといったAIツールを導入する環境に、さらにGeminiを加えた狙いとは。その背景について導入を牽引したシステム統括部のメンバーに聞きました。
連載:三井住友銀行 守りの基盤、攻めのAI
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AIのポートフォリオ戦略。常に「最適解」を選択できる機動力を
SMBCグループではすでに独自のAIアシスタントツール「SMBC-GAI」やMicrosoftのAIツールCopilotを導入中です。その上でなぜ、GoogleのAIツール、Geminiを追加導入されたのでしょうか。
山本Google workspaceという強力なツールを導入しましたのでGoogleの最先端AIであるGeminiもフル活用していくのは自然な流れでした。ただ、単なるツールの追加にとどまらない明確な狙いもあります。
山本 陽太郎氏
自在丸根底にあるのは、「リスク分散」です。単一ベンダーに依存せず、メールインフラのレジリエンスを強化したGoogle workspace導入と同じ発想で、AIも常に複数の手段を用意したいと考えています。というのも、現在のLLMの進化スピードは極めて速く、日々勢力図が変わる世界。覇権を握るモデルを見極めるというより、常に最適な選択肢にスイッチできる状態を維持することを考えています。そのような「ポートフォリオ戦略」とも言える発想のもと、常に複数の手段を用意しています。
もうひとつは、LLMはそれぞれにはっきりした特徴があることです。GPTでもGPT-4から5にバージョンアップした際性格が変わったと言われたように、LLMはエンジンが変わるだけで、言い回しから説明の粒度、文章の構成まで返答が大きく変わります。それを踏まえた上で、個々が自由に使い分けられる方が良いと考えました。
自在丸 健氏
大澤利用者の心理が「分からないから触らない(過度な忌避)」と「AIの回答を過信しすぎる(過度な信頼)」のように二極化することも、AI導入に伴うリスクのひとつです。そこで汎用性の高い生成AIを複数の選択肢を用意することで、業務シーンに応じて「論理的思考に強いモデル」「創造的な案出しに長けたモデル」といった具合に使い分け、AIとの適切な距離感を浸透させようと設計しています。
大澤 偉功大氏
Gemini導入後の反応はいかがですか。
山本SMBC-GAIと比べても導入直後のアクセス数の伸びは良いです。2023年にSMBC-GAIを導入した際は「嘘をつくこともあるのでは?」「情報漏洩は大丈夫か?」という反応も少なくありませんでした。しかし、SMBC-GAIがあったからこそ生成AIへの抵抗感がなくなり、今では業務に合わせて上手く使い分けている方も増えています。
自在丸SMBC-GAIがAIの使い方を周知する役割を果たしたのでしょう。その上で、次はこっちを使ってみようという機運が高まっているのだと実感しています。
山本行内では、カルチャー変革として全従業員がAIに馴染む取り組みを実施しています。CopilotやGeminiを導入することで、「次はこちらも使ってみよう」という感覚を広げていこうとしています。
SMBC-GAI、Copilot、Gemini、それぞれの強みを現場で活かす
各ツールはどのように使い分けされることが多いですか?
瀬戸使い方はもちろん自由ですが、大まかな理想像はあります。SMBC-GAIはSMBCグループの情報をベースに調べ物をしたいとき、CopilotはTeamsやOutlook、Word等のOfficeツールと連携したいときにお勧めです。一方、Geminiは一般的な回答や画像生成に強みがあるので、ビジネスにおける概要図の作成などに活用しやすいはずです。
瀬戸 悠貴氏
自在丸「来週の予定を全部書き出して」と指示して対応できるのは、弊社でスケジュール管理としてメインで使っているCopilotだけ。Geminiは図表や説明用資料で手作りのパワーポイントで作っているような図をきれいに作れるという強みがあります。そうした特長を踏まえながら使い分けられるといいと思います。
瀬戸文章を作成する際も、フォーマルな文章とフランクな文章など、同一用途でも差が出るという理解は、広まっていると思います。翻訳ひとつとっても、同じプロンプトを全てのAIツールに投げて、出てきた結果でどちらが良いかを判断して採用するといった使い方をするのが良いと思います。また、生成された内容の利用にあたっては全て利用者自身の責任で判断していただく必要があります。
山本現場から「タイムパフォーマンスが劇的に向上した」と感想が寄せられたこともあります。複数の生成AIに同時に異なるプロンプトを投げておき、自分が別の作業をしている間に並行して複数の回答を生成させておくという使い方をしているそうで、「まるで得意分野の違う優秀なアシスタントを3人同時に抱えている感覚で、時間の使い方が根本から変わった」と話していました。
自在丸こちらが狙ったとおり、GeminiとSMBC-GAIを利用者自身が差異を確認しながら使いわける方法が浸透してきました。どのような使い方が有効かを見定めながら、必要なプラットフォームや権限を整えていくのが私たちの役割だと思っています。
山本複数の生成AIを活用することで得られる最大のメリットは、単なる業務の時短を超えた圧倒的な生産性の向上です。そして、そこで生み出された人的リソースを、お客さまへの新たな価値創造へとシフトできることこそが、私たちが目指している姿です。
汎用AIから特化型へ、深化し続けるAI活用の展望
AI活用が浸透し、最後まで人の手に委ねられる部分はどこになるのでしょうか。
自在丸意思決定の前に、「何をやりたいか」という意思をAIに伝えるところも、人間がやらなければいけません。単純作業から消えていき、最終的には「判断すること(最終決定)」と「やりたい事柄を伝えること」は残ります。
大澤今までやりたくなかったことがいち早くなくなり、やりたいこと、つまり自律性が強く求められてくる流れになると思います。
自在丸工夫次第で使い方が広がるので、AIが進化すればシナリオすら自分で作らなくても良い世界観も生まれるでしょうね。
今後検討している特化型LLMへの取り組みについて教えてください。
山本2026年度内にどういった方針でいくのか、意思決定まで出来ればと考えています。現時点では汎用型LLMとRAG(Retrieval-Augmented Generation、検索・拡張生成)の組み合わせで、大半の業務はカバーできると考えています。一方で、例えば財務諸表からだけでなく、定性的な情報も加味したより高度な融資判断等、一部の業務では、個別にファインチューニングしたLLMを活用した方が、より高い精度を出せる可能性もあるのではないでしょうか。また特化型LLMへの取り組みにあたっては、フルスクラッチで構築するとコストがかかりすぎるため、外部サービスも上手く活用ながら検討を進めたいと考えています。
特化型LLMによって、これまで難しかったことが実現できそうな領域はありますか。
山本融資判断以外で言うのであれば、推測も含みますが、例えばコールセンターでのお客さま対応において、RAGは「検索」という工程を挟むため、どうしても数秒のタイムラグが生じます。お客さまとのリアルタイムな対話ではこのタイムラグが致命的となる可能性があります。特化型LLMなら検索なしで知識を内蔵しているため、レスポンスの高速化も期待できるのではないでしょうか。
自在丸金融特化型LLMの導入も選択肢のひとつですし、他に普及しているAIも検討すべきかもしれません。どれが生き残るかわからないため、特徴ある機能があれば適材適所で導入の検討をしていきたいと思います。Geminiのように誰でも使えるような機能があれば全体に入れますし、ライブコーディング(※1)など玄人向けの機能は必要な人たちに限定して提供するという体制も視野に入れています。
※1 AIがリアルタイムでコードを生成・実行しながら開発を進める機能のこと。
これまでも「日本初」「世界初」となる挑戦を積み重ねてきました。その姿勢は今後も変わりません。日々の問い合わせの中に、ニーズは潜んでいます。必要な人たちに、必要なツールを提供できるよう、今後も選択肢を増やしていきたいです。
連載:三井住友銀行 守りの基盤、攻めのAI
- 三井住友銀行が同一メールアドレスのマルチクラウド稼働で挑む、究極のレジリエンス戦略
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PROFILE※所属および肩書きは取材当時のものです。
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株式会社三井住友銀行 システム統括部 インフラ企画グループ グループ長
山本 陽太郎氏
2007年三井住友銀行入行。中堅・中小企業向けの法人営業を経験後、システム統括部にてIT戦略の立案や予算運営の他、銀行・グループ会社の各種システム開発プロジェクトの推進に従事。日本総合研究所、三井住友カード情報システム部門の出向を経て、2023年4月より現職。(2026年3月取材時点)
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株式会社三井住友銀行 システム統括部 ダイレクター
自在丸 健氏
1993年三井住友銀行入行。営業店で融資・ローン等の銀行実務を経験後、情報システム部門へ異動。2005年日本総合研究所への転籍の後はSMBCのイントラ基盤、メールシステム等のOA関係のプロジェクトを企画・推進。2013年11月に現職へ異動し、OA関係の対応を継続しつつクラウド活用やAI等の新規分野の企画・推進に従事。
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株式会社三井住友銀行 システム統括部 インフラ企画グループ バイスプレジデント
大澤 偉功大氏
2009年日本総合研究所入社。アプリケーション、インフラに問わず幅広い分野でのシステム開発を経験後、2022年に三井住友銀行 システム統括部に配属。デバイス、クラウド開発プロジェクトの企画から実行までを担い、全社的なインフラ環境の高度化に従事。
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株式会社三井住友銀行 システム統括部 インフラ企画グループ アソシエイト
瀬戸 悠貴氏
2019年三井住友銀行入行。法人営業部にて融資・外国為替を経験した後、システム統括部へ異動。全社のワークプレイス基盤(クラウドサービスを活用したコミュニケーション/コラボレーション環境)の導入・統制・運用を担当するとともに、生成AIを含む新技術の導入および各種システム開発プロジェクト推進に従事。
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