取り組み
2026.11.05更新

日本の農業危機を、どう乗り越えるか。「次世代アグリビジネス協議会」発足の理由 | SMBCグループが支える、次世代の農業経営 vol.1

担い手の高齢化、農地分散、気候変動――。日本の農業は、複数の課題が同時に進む大きな転換点にあります。今後10年間で農業者数は3分の1以上減ると見込まれ、今の生産力を保つだけでも、生産効率を1.5倍以上に高める必要があるといいます。鍵を握るのは、離農する農業者の農地を引き受け、規模を拡大していく農業法人です。

SMBCグループが旗振り役となり、2026年4月に設立した「次世代アグリビジネス協議会」は、こうした農業法人の成長を業界横断で後押しする取り組みです。協議会が目指すものと2030年に向けた打ち手について、三井住友フィナンシャルグループ 執行役員 グループCSuOの髙梨雅之氏と日本総合研究所 創発戦略センター チーフスペシャリストの三輪泰史氏に伺いました。

農業経営体は5年で2割超減。「今後数年」が日本の農業を左右する

日本の農業は今どのような状況、転換点にあるのか、それらの課題をどう捉え、SMBCグループとしてどのような対応をしているのかを教えてください。

髙梨農業経営体は2020年から2025年までの5年間で2割以上減り、担い手不足はいよいよ深刻化しています。農業従事者の平均年齢は約70歳で、今後も離農による人数の減少が懸念されます。そうした中、これからの農業を誰がどのような形で担っていくのかは、まだまだ不透明です。2030年に向けて承継が進まなければ、農地が残っていても生産を維持できない地域が増えていきます。地域ごとに次の担い手と、それを支える経営の形を今から整えられるかが、地域農業の将来を左右すると考えています。

SMBCグループは2016年から、農業者の皆さまとともに「みらい共創ファーム秋田」を運営し、生産現場に身を置きながら課題と向き合ってきました。農地や機械・施設をどう引き継ぐか、技術を誰に伝えるか、生産したものをどう販売するか。これらを一体で考え、対応していくことが、持続可能な経営につながります。こうした課題は、一つの農業法人や金融機関だけでは解決できません。異なる立場の方々と具体的な解決策をつくり、実行に移していく。そのために立ち上げたのが、「次世代アグリビジネス協議会」です。

三井住友フィナンシャルグループ 執行役員 グループCSuO
三井住友銀行 執行役員 社会的価値創造本部長
髙梨 雅之氏

農業者が議論をリードする。業界横断の協議会で金融グループが担う役割

「次世代アグリビジネス協議会」では、具体的にどのようなことに取り組もうとしているのでしょうか。

髙梨まずは、農地の集積と担い手への円滑な承継、規模拡大を目指す農業法人への資金供給について重点的に議論を始めています。ただ、農地を引き受けて規模を拡大するには、人材や機械・施設、運転資金、販路なども必要になります。これらの課題は互いに関わり合っています。農地とファイナンスを起点に、テーマを横断して課題を捉え、必要な支援体制やサービスを組み合わせることで、農業法人の成長を支えていきたいと考えています。現在は農業事業者のほか、金融機関、人材サービス、そして食農のバリューチェーンに関わる30社以上に参画いただいています。

三輪協議会の大きな特長が、全国の先進農業者の方々に入っていただいていることです。農業向けのサービスや製品を提供する企業が集まる場はよくありますが、今回は私たちがサポート役に回り、農業者の皆さんに議論をリードしていただきながら、さまざまなモデルケースを提供してもらっています。

一般的に、サプライチェーンの上流から下流までが一つのテーブルにつくと、立場や利害の違いから対立が起きやすいものです。しかし日本の農業が危機的な状況にあるという共通認識のもと、同じ方向を向ける場をつくることに意義があると考えています。

日本総合研究所 創発戦略センター チーフスペシャリスト
三井住友銀行 社会的価値創造推進部 部長
三輪 泰史氏

髙梨金融機関はいろいろな企業とお付き合いがありますので、中立的な立場を保ちやすいのです。今、農業の体制や経営体が変わりつつある一方で、それを支えるサービスや仕組にも、新たに整えるべき部分があります。私たちが起点となり、農業者や企業、国・自治体、研究・教育機関などの皆さまと共に、必要な仕組みをつくっていきたいと考えています。

三輪机上の空論ではなく、最前線で最先端の課題にぶつかっている方々が、皆でソリューションを考えています。皆さん当事者意識が強く、様子見の方はあまりいません。農業者からは「うちの現場でやってほしい」、サービス企業からは「自社のこの機能を使えば、課題解決に貢献できるのでは」といった声が上がる、非常に実践的な場になっています。協議会の立ち上げ後も、参加を希望する企業や農業法人から多くの問い合わせが寄せられています。

農地を集めるだけでは変わらない。規模拡大を支える「分業」と「連携」

農業者の方々からは、どのような声が上がっていますか。

三輪規模拡大によってもうかる農業を実現していく方向性には、どの農業法人も積極的です。ただ、農地は面積があればよいわけではなく、使いやすい農地でなければ意味がありません。次の世代にバトンタッチしていく際、普通に承継するだけでは、離れた場所にある小さな農地がばらばらに集まってきます。経営面積は増えても、使いにくくなってしまうのです。また、農地を農業法人に集約するだけでは不十分で、その後に土地を改良したり、通信インフラを整備したりして、使いやすくしていくことも必要です。

農地の集積や設備の整備を進めるためには、資金面での支援も欠かせませんね。

髙梨そうですね。これまでにない規模への事業拡大に挑戦する農業法人の成長投資を支えるとともに、収穫までの資金繰りや、価格・天候による収入変動にも目を向ける必要があります。そうした農業ならではの課題に応じて、どのような資金供給やリスクへの対応ができるかを検討していきます。

新規就農にあたっては農機具の準備が大変とのことですが、解決策や仕組みづくりは進んでいるのでしょうか。

三輪リースやレンタル、地域での共同利用のほか、最近は「農業支援サービス」といって、作業そのものを外部に委託する方法もあります。ドローンによる農薬散布を請け負う会社などがその例です。最初に大きな投資をするのではなく、稼ぎながら支払っていく動きが各地で出てきています。実は、国や民間、自治体が提供するサービスや制度は数多くあります。ただ、それぞれが個別に存在していて、農業者にとって使いやすい形で組み合わせられていないのが現状です。そこで私たちが触媒となり、既存の仕組みをつなぎ、足りない部分を補っていきたいと考えています。

従来は耕作から収穫まですべてを個でやらなければならなかったのが、タスクが見える化され、分業できる部分、アウトソーシングできる部分がはっきりしてきたのですね。

三輪これまでは、農業の経験を何年も積まなければ一人前とは認められない世界でした。しかし、作業ごとに専門家の力を借りられれば、状況は変わります。

例えば、農家出身ではない若手でも、ITやDX、経営に関する知識を持っている人はいます。農業の経験が足りない部分は地域の専門家に補ってもらい、自分の得意分野を生かして農業経営に関わることができる。そうした新たな農業のあり方を、協議会から発信していきたいと考えています。

「守る農業」から「稼げる産業」へ。少ない人数で生産を支える仕組みづくり

一昔前と違うのは、公的支援も活用しながら、経営として成り立たせようという動きに思えます。

三輪そうですね。守るだけの農業では、次の世代に職業として選んでもらうことはできません。胸を張って、稼げる産業に変えていかなければなりません。これからの10年、15年で1人当たりが管理する農地を2倍、3倍に増やし、売り上げも拡大できる可能性はあります。ただし、そのためには農地の集約方法を見直し、新しいデジタル技術を活用するなど、少ない人数でも効率的に生産できる仕組みを整えなければなりません。

また、せっかくスマート農業のアプリや自動運転の機械があっても、通信環境が整っていなければ宝の持ち腐れです。かつては傾斜地や農地が狭い、水はけが悪いといったことが条件不利でしたが、今は電波が通じないこともその条件不利の一つです。ただ、これは自然環境の問題とは異なり、行政によるインフラ整備などで改善できる課題です。インフラ環境が整えば、多少の傾斜地であってもデジタル技術を使いやすくなります。

2030年までに、次の担い手を支える仕組みを

協議会の活動期間を3年間と区切ったのは、どのような考えからですか。

髙梨農業を取り巻く急速な変化や危機的な状況を踏まえ、3年間で具体的な成果を生み出すことを目指しています。得られた知見や成果を関係する支援組織などにつなぎ、社会実装や普及を進めることで、次の世代に引き継げる農業経営の選択肢を増やしていきたいと考えています。

三輪2030年に向けて、日本の農業はさらに厳しい状況になると考えています。そうした危機に対し、さまざまな業界の関係者が一体となって課題を解決するための突破口を、協議会で生み出したいと考えています。

協議会に入っていただいている先進農業者は、「困ったらあの人に任せよう」と頼られ、規模拡大のスピードが速い方ばかり。一方で、そうした担い手がいない地域では、このままでは農業を続けられなくなる恐れがあります。そうした地域で、次世代のための種まきやお手伝いができる協議会にしたい。「協議会があったから、うちの地域でも第二、第三の先進農業者が生まれた」となれば、成功だと思っています。

10年前は、「一緒にやりましょう」とお話ししても、自分たちの力で農業を守っていこうという意識が強かったように感じます。それが今では、ベテランの農家の方々から「ぜひ力を貸してほしい」と言われるようになりました。「みらい共創ファーム秋田」を10年続け、現場の皆さまと共に取り組んできたことが、少しずつ信頼につながっているのかもしれません。

改めて、なぜSMBCグループが食と農に関わるのかを教えてください。

髙梨SMBCグループでは中期経営計画で「社会的価値の創造」を実現するためのマテリアリティ(重要課題)として、「緑の地球」「輝く人々」「幸せな成長」の3つを掲げていますが、農業はそれらすべてに関わってきます。我々は農業の専門家ではありませんが、金融の知見に加えて農業者、食品企業、技術企業、国・自治体、研究・教育機関など、異なる立場の方々をつなぐことができます。お金を供給して終わりではなく、現場で本当に必要とされる仕組みを一緒につくる。次の世代が農業を職業に選び、持続可能な産業として発展させていくために、金融グループとしてできることに取り組んでいきたいと考えています。


PROFILE※所属および肩書きは取材当時のものです。

  • 三井住友フィナンシャルグループ 執行役員 グループCSuO
    三井住友銀行 執行役員 社会的価値創造本部長

    髙梨 雅之氏

    1993年住友銀行(現三井住友銀行)入行。IR室長を経て、企画部にて当社初の統合報告書作成を主導したほか、ロンドンで欧州営業第五部共同部長としてサステナブルファイナンスを推進。2022年よりサステナビリティ企画部長、2023年より現職。

  • 日本総合研究所 創発戦略センター チーフスペシャリスト
    三井住友銀行 社会的価値創造推進部 部長

    三輪 泰史氏

    2004年日本総合研究所入社。研究・専門分野は農業再生による地域活性化、IoTやAI等を活用した先進農業技術の事業化・導入支援、IoTの社会実装支援、農業参入・農業関連新規事業の支援、農業ビジネスの海外展開支援、高付加価値農産物のブランディング確立と流通改革。農林水産省などのさまざまな委員を担当。

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資金調達

類義語:

  • ファイナンス

事業継続や成長に必要な資金を確保すること。銀行借入や社債発行による「デット」、株式発行による「エクイティ」、資産売却による「アセット」等の手法がある。コストや財務状況を考慮した最適な調達手段の選択が重要。

DX
(Digital Transformation)

類義語:

  • デジタルトランスフォーメーション

「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の頭文字をとった言葉。「Digital」は「デジタル」、「Transformation」は「変容」という意味で、簡単に言えば「デジタル技術を用いることによる、生活やビジネスの変容」のことを指す。

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