2025年6月、インド・ムンバイにて、SMBC Asia Rising FundのパートナーであるIncubate Fund Asiaが主催するイベント「Asia Leaders Summit 2025」が開催されました。
本イベントでは、AI、成長投資、GCC(グローバル・ケイパビリティ・センター)をテーマに、日本およびアジア各国からスタートアップCEO、大企業幹部、投資家など約150名が集結。熱気あるセッションとネットワーキングを通じて、インド市場の現在と未来が浮き彫りになりました。
本レポートでは、現地での体験をもとに、インドのスタートアップ・エコシステムの実情と、SMBCの取り組みや今後の共創の可能性をお伝えします。

急成長するインド – 多様な市場×成長スタートアップ×GCCの発展

「Asia Leaders Summit」は、アジアのスタートアップやテック業界のリーダーが集う場として、これまでシンガポールや深圳などで開催されてきました。
今回、パンデミックを経て6年ぶりの開催地にインド・ムンバイが選ばれた背景について、主催者である本間 真彦氏は次のように語りました。

「インド・ムンバイを開催地に選んだのは、AIが産業全体を変革する中で、インドがその発展と応用において重要な役割を果たすと考えたためです。ムンバイは金融の中心地として多くの意思決定者が集まる都市であり、アジア全体の連携を促進する場として最適だと判断しました。」

インキュベイトファンド株式会社 代表パートナー
本間 真彦氏

インドは現在、世界最多の人口と第5位の消費市場を背景に、主要経済国の中でも最速の経済成長を遂げており、有望なスタートアップが次々と誕生しています。
BtoC領域では、インターネットの急速な普及とオンラインショッピングの一般化により、「クイックコマース」と呼ばれる即時配送型サービスが急成長しています。数時間~数日以内の配送ニーズは、低い人件費・高い人口密度による効率的な物流に加え、小型冷蔵庫による頻繁な買い足し需要が背景にあります。

イベントでは、ラストワンマイル配送のインフラとして、ギグワーカー向けに電動二輪車のシェア・リースを提供する「Yulu」が登壇しました。経済的な理由からバイクを持てない層(特に女性)に新たな収入機会を提供しています。

また、BtoB領域では、インド発のSaaS企業が国内課題を起点にグローバル展開を進めるモデルが注目されており、「Vayana」(中堅・中小サプライヤー向けにファイナンス提供)や、「MODIFI」(貿易金融のデジタル化を推進)といったSMBC Asia Rising Fundの出資先も登壇。データを活用し、インド市場の課題をビジネスチャンスへと転換するソリューションを紹介しました。

写真左 Vayana 創業者兼CEO Ram Iyer氏/写真右上 Yulu 共同創業者兼CEO Amit Gupta氏/写真右下 MODIFI 共同創業者兼COO Sven Brauer氏

イベント2日目には、Deloitteムンバイオフィスで、インドにおけるGCC(グローバル・ケイパビリティ・センター)の進化に関するセッションが行われました。
高度なIT人材、地理的優位性、政策支援を背景に、世界のGCCの約半数がインドに集中。多くの企業がまず売掛金・買掛金業務などのオペレーション業務から導入を始め、活用範囲を広げています。

一方で、GCCは単なるコストセンターにとどまらず、事業価値や売上に貢献する戦略的拠点へと進化を遂げています。セッションでは「Rakuten India」の事例を通じて、GCCで開発されたソリューションの外販やAIコンサルティングの提供など、付加価値の高い取り組みが紹介されました。

Deloitteムンバイオフィスでのセッション風景

以上のように急成長するインド市場へのコミットを強化するため、SMBCは2025年4月よりインド本部を新設し、成長戦略の加速に向けた体制を構築しています。これによりインド市場でのプレゼンスを高めるとともに、現地スタートアップとの連携をさらに強化することにも繋がります。実際、SMBCはこれまでもインドにおけるスタートアップ投資を通じて、現地のイノベーションを支援してきました。

SMBC Asia Rising Fund-スタートアップ投資の軌跡

スタートアップ投資への道のりは、3年前にシンガポールで発足した「APACデジタルプロジェクト」からスタートしました。
インドを含むAPAC地域における数百社の経営層と対話を重ねるなかで、CFOが意思決定を行うために必要な財務データを統合して可視化・分析する「CFOダッシュボード」を開発し、現在では100社以上に提供しています。
※「APACデジタルプロジェクト」の詳細については、以下の記事をご覧ください。

CFOダッシュボードのイメージ

こうしたお客様との対話を通じて、従来の金融サービスを超えるニーズが明らかになり、スタートアップとの連携を通じて新たなビジネスモデルを迅速に取り入れ、金融・非金融を問わず事業開発に活かしていくことの重要性を強く認識するようになりました。
この取り組みを加速するため、業界のバリューチェーンの最適化・デジタル化を推進するテクノロジーパートナーとの連携を模索し、2023年5月にはIncubate Fundと共に「SMBC Asia Rising Fund」を設立。2025年6月末時点で、インド・APAC地域のスタートアップ6社への投資を発表しています。
※「SMBC Asia Rising Fund」の設立背景・詳細については、以下の記事をご覧ください。

SMBC Asia Rising Fundが掲げるミッション

SMBCは、大企業とスタートアップの連携によるオープンイノベーションを推進し、顧客と投資先をつなぐことで事業支援を行ってきました。
例えば、本イベントに登壇した「Vayana」の事例を紹介します。

インド最大級のサプライチェーン金融プラットフォームである「Vayana」は、売り手・買い手・金融機関を結び、毎月10億米ドル以上の融資を提供。信用モニタリングやキャッシュフロー管理などの付加価値サービスも展開し、3,000社以上の中堅・中小企業を支えています。
これまで日系企業からは、現地パートナー(仲介業者や販売代理店)の信用チェックやKYC業務、また取引先の信用ステータスのモニタリングに多くの手間がかかるという声があり、Vayanaの自動化されたリスクスコアリングや早期アラート機能に高い関心が寄せられました。こうした協業の可能性は、インド市場進出における課題解決に直結しています。

これらは一例に過ぎず、社内およびお客様へのスタートアップ紹介や協業の推進を通じて、「サプライチェーンのデジタル化」という当初のミッションを着実に実現しつつあります。

Vayanaが提供する包括的ソリューション

「Finance OSモデル」-SMBCの目指す新たなエコシステム

SMBCは有望なスタートアップとの連携を進めるなか、次なる構想として、生成AIを中核に据えた新たな金融基盤「Financial OS(Operation System)」を掲げています。

イベントにてMayoran Rajendra氏は、人間とAIエージェントが協働することで、意思決定をより高度化し、業務プロセスを自動化する未来像を紹介しました。AIエージェントは単なるツールではなく、目標達成のために最適な手段を自律的に思考・選択し、自律的に複数のタスクをこなす業務の「相棒」となります。

株式会社三井住友銀行 アジア・大洋州戦略統括部 アジアイノベーションセンター室長
ラジェーンドラ マヨラン氏

この構想の先にあるのは、スタートアップや技術パートナーとの連携を通じて、顧客への価値提供と産業全体のデジタル変革を推進する未来。その中核を担う取り組みの一つが「SMBC Asia Rising Fund」であり、AIやデータを活用するスタートアップへの投資を通じて、SMBCのエコシステム拡張に貢献しています。

スピーチの終盤では、日本企業とスタートアップの協業についても触れられました。
日本企業は高度な専門知識を有しており、インドのスタートアップにとってはその知見が新鮮な驚きとなることもあるといいます。日本企業はスタートアップの技術や革新性を取り入れて事業成長を加速させる一方で、スタートアップ側も日本企業との連携を通じて専門性やノウハウを強化しており、双方にとって有益なWin-Winの関係が築いていくことが期待されます。

最後に、マヨラン氏はこう締めくくります。
「SMBCはソフトウェア会社ではありません。私たちは銀行として、大企業、サプライヤー、ディストリビューター、技術パートナーなど、産業のジグソーパズルを繋ぎ合わせる存在です。」

SMBCは今、金融の再定義に挑んでいます。スタートアップや技術パートナー、新たなイノベーションを共に創るお客様とともに、SMBCは次のピースを繋ぎながら、未来の金融と産業のかたちを築いていきます。


PROFILE※所属および肩書きは取材当時のものです。

  • インキュベイトファンド株式会社 代表パートナー

    本間 真彦氏

    慶應義塾大学卒業後、ジャフコの海外投資部門、アクセンチュア、三菱商事傘下のワークスキャピタルを経て、ベンチャーキャピタリストとして独立後2010年にインキュベイトファンドを設立。国内投資に加えて、シリコンバレー、インドおよび東南アジアの海外ファンドの統括を行う。

  • 株式会社三井住友銀行 アジア・大洋州戦略統括部 アジアイノベーションセンター室長

    ラジェーンドラ マヨラン氏

    東京大学工学部精密機械工学の修士課程を卒業。MRIの中で使用可能な手術ロボットを理化学研究所と共同で研究。2009年、GEヘルスケア・ジャパンに新卒入社。新製品開発エンジニアとしてMRIの研究開発に取り組んだ後、エンジニア向けリーダーシップ・プログラムに選ばれ、製造、IT、マーケティング、サプライチェーンのプロジェクトをリード。2013年より、日本発の新製品MRIのグローバル開発をリード。2015年に、GEジャパンに移り、GEの産業用IoTビジネスを日本で立ち上げ、業界のパイオニアとして電力・航空・製造分野で数多くのIoTプロジェクトを手がける。2020年8月より三井住友銀行に移り、シンガポールよりAsia Pacific地域におけるデジタル戦略をリード。

その他の記事を読む

ギグワーカー

類義語:

インターネット上のプラットフォームなどを通じて、単発の仕事(ギグ)を請け負う働き方をする人々のこと。

ラストワンマイル配送

類義語:

物流における最終区間、つまり、物流拠点からエンドユーザー(消費者)の自宅や指定場所まで商品を届ける配送のこと。

クイックコマース

類義語:

食品や日用品などの商品を、オンライン注文後、数十分程度で配達するサービスのこと。

GCC
(グローバル・ケイパビリティ・センター)

類義語:

グローバル・ケイパビリティ・センターの略。多国籍企業が、コスト削減や専門性の高い人材の確保を目的として、海外に設立する拠点のこと。

AI
(artificial intelligence)

類義語:

  • 人工知能

コンピュータが人間の思考・判断を模倣するための技術と知識体系。

エコシステム
(Ecosystem)

類義語:

各社の製品の連携やつながりによって成り立つ全体の大きなシステムを形成するさまを「エコシステム」という。

SaaS
(Software as a Service)

類義語:

Software as a Serviceの略。読み方は「サーズ」。ソフトウェアを利用者側に導入するのではなく、提供者側で稼働しているものをネットワーク経由でサービスとして利用することを指す。納期短縮、設備投資削減などの効果がある。

オープンイノベーション
(Open Innovation)

類義語:

製品開発や技術改革、研究開発や組織改革などにおいて、自社以外の組織や機関などが持つ知識や技術を柔軟に取り込んで自前主義からの脱却し、市場機会の増加を図ること。

プラットフォーム
(Platform)

類義語:

サービスやシステム、ソフトウェアを提供・カスタマイズ・運営するために必要な「共通の土台(基盤)となる標準環境」を指す。

KYC
(Know Your Customer)

類義語:

一般にユーザの実在性の確認を行う「身元確認」と、ユーザの行為を確認する「当人認証」の2つで構成される『本人確認』を意味する。

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