【AIが切り拓く金融の未来!Global Finance & Technology Network Group CEO Sopnendu Mohanty氏×SMBCグループ 磯和啓雄氏】GFTN Forum Japan 2025レポート

2025年3月、金融庁が主催したJapan Fintech Weekの中で数多くの金融に関するイベントが行われました。そのJapan Fintech Weekの中でも、国際色豊かなイベントとして一際異彩を放っていたイベントがGFTN Forum Japan 2025です。
本イベントは、Monetary Authority of Singapore(シンガポール金融当局、MAS)が主催する世界最大級のフィンテックイベント「Singapore Fintech Festival」を企画・運営するGlobal Finance & Technology Network(GFTN)が主催。今回は、GFTN Forum Japan 2025でも特に注目された「AIが切り拓く金融の未来」について、GFTNのCEOであり、MASの元Chief Fintech OfficerでもあるSopnendu Mohanty氏と三井住友フィナンシャルグループ(以下、グループを総称し、「SMBCグループ」)執行役専務 グループCDIO(チーフ・デジタル・イノベーション・オフィサー)磯和 啓雄氏を迎えて、語り合いました。
日本最大級のグローバルフィンテックイベント
2025年3月3日から6日の期間にて、GFTN Forum Japan 2025が開催されました。まずは、イベントの概要について教えてください。
MohantyGFTN Forum Japan 2025、(以下、GFJ)については、132のパートナーが参加し、延べ5,600人以上の方にご参加いただきました。金融庁が主催するJapan Fintech Weekにおいて、GFJは、多くの国際的な参加者と出展者を集めた最大規模のイベントの一つだったと思います。また、今年は「Building Financial Corridors」をテーマに、GFJは日本国内だけでなく世界各地の金融都市をつなぐプラットフォームとしての役割を果たしました。
今年のテーマの一つにAIがもたらす金融の変革というものがあり、その中で、SMBCグループにはグループCDIOである磯和氏にご登壇いただきました。生成AIの与える金融領域への影響やSMBCグループの生成AIに関する取り組み、そして、生成AIが切り拓く金融の未来についてもご講演いただきました。
生成AIが切り拓く金融の未来
磯和氏にうかがいます。GFJでも登壇されたということですが、あらためて、SMBCグループの生成AIに関する取り組みについて教えてください。
磯和生成AIの取り組みを話す前に、我々SMBCグループでは、10年程度続けているAIに関する取り組みについてお話させてください。
今から、11年前の2014年、IBM社が開発した機械学習機能を備えた質疑応答システムであるWatosonを導入して、私たちのコールセンターにおける対応業務の品質向上並びに効率化を開始いたしました。お客さまへの高品質な応答を実現できたとともに、オペレーターの定着率や満足度の飛躍的な向上、そして、同様にコストカットにも成功しました。
その3年後、我々は、行内全体でRPAの活用を拡大させて業務効率化を開始させました。
2023年にSMBCが日本の銀行の中で先駆けて、生成AIを用いたアシストツール「SMBC-GAI」を社員全員が使えるようにしました。これは、まず、触ってみるということを実現するということです。一握りの特別な本部スタッフが使うのではなく、会社全体で最新技術に触れてみることが大変意義のあることと考えております。
そのような環境を整えることで、従業員は日常的に生成AIを利用して、業務効率化や問題解決に役立てております。一番の学びは、生成AIがどこで役立つのか、いつ使うべきか、ということを触ることによって、従業員が、自らの経験として理解し始めたことでした。
このように、企業、特に我々のような大企業にとしては、会社全体で技術の理解と順応に投資することは非常に重要であると考えております。

磯和 啓雄氏
そのような取り組みを進める中で、感じられたAIの可能性や未来についても教えてください。
磯和今まで、ご紹介させていただいたのはAIを利用した効率化についてでしたが、我々の更なる付加価値向上の可能性を秘めていると思います。それは、ある単体の業務の効率化だけではなく、組織に起因する根深い問題についても解決しうると考えております。
残念ながら、縦割り構造のような仕事の仕方もしくは組織体制により、お客さまへの付加価値が最大化できていない場合もあると思います。例えば、現在では、お客さまへのソリューション提供は、複数の部署によって、別々に行われることがあります。AIを活用することによって、各種ルールを守りながらも、顧客への付加価値を最大化するように、ソリューションを一気通貫で提供することが可能になると思われます。
そもそもの縦割り構造という組織体制を変えられうると私は考えております。今の組織体制は人間の認知限界の中で最適化された構造にせざるを得ないです。しかし、生成AIによる組織作りは人間の認知限界を超越して、付加価値の最大化を実現できる組織を作ることができると考えており、我々の生産性の飛躍的向上を導いてくれることでしょう。
私の見解のご紹介になりますが、このような例が幾つも出てくるAIが深く浸透した未来においては、人それぞれ自分のためのAIエージェントやAIアバターを保有して、我々の代わりに業務を実行してくれるものと考えております。
Mohanty氏にうかがいます。イベントの主催者であるGFTNとして、生成AIや他新技術による金融業界への影響や可能性をどのようにみていますか。
Mohanty人工知能は、GFTNが主催する国際フォーラムにおいても中心的なテーマとして扱っています。AIは、世界の金融セクターを変革する計り知れない可能性を秘めており、ほとんどの金融機関がすでにチャットボットによる対話型AIや生成AIを業務効率化と生産性向上のために利用しています。次に来ると想定されている大きなイノベーションは、エージェント型AIです。ユーザーによる継続的な改良やインプットがなくとも事前に定義されたルールおよび経験からの学習によって意思決定が行えることですが、AIエージェントが利用可能になれば、人間の認知限界を超越したAIの付加価値最大化の実現がより近くなると思います。
日本においては、グローバルトレンドと同様に、フィンテック企業だけでなく、様々な産業にわたって大きな投資を伴う新たなAIエコシステムが出現しています。業務プロセスの自動化、ワーク・フローの効率化、全体的な生産性向上を目指して、あらゆる企業が既存の事業ラインに積極的にAIを組み込んでいます。
投資や効率化・イノベーションへの意欲に牽引され、世界はAI導入の大きな流れの中にいますが、しかしながら、ユーザーの保護と市場の安定を維持するために必要な規制との適切なバランスを見つけなくてはなりません。政府はこの領域を慎重に進める必要があり、イノベーションと規制に関する議論が非常に重要です。過度な規制によってイノベーションを損なうべきではありませんが、元々、規制当局に身を置いていた経験からも、イノベーションを誘引しつつも、ユーザーの保護、即ち、テクノロジーには置き換えられない人的な要素を守るための、バランスの取れた規制を見出すことの重要性と同時に、その難しさも痛感しています。

Sopnendu Mohanty氏
リスクとリターン:金融機関が果たすべき役割
生成AIは、確かに影響力が大きすぎるため、推進するだけではなく、ガバナンスという観点も重要になるというご示唆かと思います。改めて、政府・行政という観点からのご見解をいただきたく、MASから見た生成AIの利用に関するリスクとそれに対する提言について教えてください。
Mohanty生成AIにおいても、ガバナンスは非常に重要です。生成AIの複雑さは、特に信用評価において不透明な意思決定につながる可能性があり、合成ID詐欺やAIによる偽情報といった脆弱性を生み出し、データの透明性、市場の健全性、サイバーセキュリティを脅かします。
これに対し、我々GFTNは、シンガポール金融管理局が掲げる協調的な規制の枠組み、FEAT原則 - Fairness(公平性)、Ethics(倫理)、Accountability(説明責任)、Transparency(透明性)、を支持しています。この原則は、私たちの強力なAIガバナンスへのコミットメントと合致するものと考えています。
EUのリスクベースのAI法や米国のセクター固有のガイダンスなど、規制のアプローチは国によって異なりますが、ガバナンスにおける優先事項は、イノベーションと適切な安全策のバランスを取る、状況に応じた政策であるべきだと思っています。
その中でGFTNは、我々が持つ国際的なネットワークの中での活動を通して、業界関係者と規制当局との間の調和された基準と継続的な対話の重要性を促進しています。協調を通じてのみ、生成AIの利点が責任ある形で活用され、そしてその導入がフィンテックのエコシステムのより大きな発展に繋がると信じています。

磯和我々も各種AIを用いたプロジェクトを進めるにあたり、リスクの分析やヘッジ策の検討をしています。責任あるAIという言葉も大切にしながら、我々は、金融機関として、AIの分野でもグローバルソリューションプロバイダーを目指しております。
生成AIを活用する中で、ハルシネーションのリスクが、度々、話題になります。しかし、この"計算の正確性"については、大きな心配はしておりません。なぜなら、これは、AIの利用に関して、適切にデザインすることによってリスクをコントロールできるからです。
顧客体験で最も重要なのは、応答の精度とニュアンスです。組織の価値観や文化を踏まえたうえで、AIが応答できるように慎重にデザインする必要があります。
SMBCグループでは、モデルの改善の為にお客さまと共同で実験を実施しております。まだまだ、完成の途中であり、我々は、適切にリスクをコントロールできるように試行錯誤を繰り返して行っております。
Mohantyリスクを早々に議論しなければならないということは、世間的にも生成AIに対する期待や関心が物凄く大きいということの裏返しと考えています。
生成AIが繋ぐ未来:Unlock Borders
ありがとうございます。仰る通り、グローバルに見ても生成AIは強力なツールということは世間的に見ても疑う余地のないことと思われます。磯和氏の講演のお言葉を借りれば、生成AIを利用することによって、Unlock Bordersが可能であり、国境を越えての協力・協業が可能になるとも思われます。SMBCグループをはじめとする日本国内の民間企業と海外企業、特にスタートアップとの協業・連携についてご所感頂戴できますか。
磯和SMBCグループでは、海外のスタートアップとの協業はまさに注力しているところです。
2023年、シンガポールにコーポレートベンチャーキャピタル、SMBC Asia Rising Fundを設立しました。この目的は、有望な海外スタートアップとアジアの各国をはじめとするSMBCグループ会社との協業です。
今年のGFJのコンテンツの一つであった、Digital Assets Summitには、Rising Fundが投資した有望なスタートアップのCEOが登壇しております。この登壇は、SMBC Asia Rising Fundからそのスタートアップに打診をしたことがきっかけで実現しました。CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の活動では、投資先の広報活動やバリューアップにも貢献しております。もちろん、これだけではなく、SMBCの海外拠点と投資先との協業により、双方の更なる付加価値向上も見込んでおります。これらの活動を通じて、我々の海外展開・事業の更なる成長を実現しようとしております。
GFJの基調講演でも話しましたが、生成AIはツールの一つでありますが、うまく活用できれば強力です。しかしながら、ビジネスを大きくする、特に海外で大きくするためには、生成AIだけでは、ポテンシャルをアンロックできるわけではないと考えております。ポテンシャルをアンロックさせるためには、現地の仲間が必要不可欠です。シンガポールや他アジアのスタートアップと一緒に日本とアジアの成長を牽引していきたいと考えております。
Mohantyそうですね。日本とシンガポールの政府間の観点では、金融、デジタル技術、イノベーション、研究、そして持続可能性など様々な分野に及んで協業を行なっています。戦略的パートナーシップを通じて、両国はそれぞれの強みを活かし、技術進歩を推進し、スタートアップを支援し、デジタル接続性を強化し、グローバルなサイバーセキュリティと気候変動の課題に取り組んでいます。このパートナーシップは進化し続けており、両国を地域のイノベーションとデジタル経済の分野におけるリーダーとしての地位を確立していると信じています。
日本の金融庁(FSA)とシンガポール金融管理局(MAS)は、2017年に正式なフィンテック協力フレームワークを設立しました。このイニシアチブにより、両国はフィンテック企業を互いの市場に紹介し、規制に関するガイダンスを促進し、金融イノベーションに関する情報を交換することができ、それによって障壁を最小限に抑え、国境を越えた金融技術の成長を促進しています。このフレームワークは、強固な金融経済関係を維持しながらイノベーションを育成するという両国のコミットメントを体現しています。
さらに2021年7月には、シンガポールと日本は、デジタル経済、人工知能、サイバーセキュリティ、およびICTに関する協力覚書(MOC)に署名しました。この合意は、ベストプラクティスの共有、規制の調和、デジタル貿易と相互運用性のイニシアチブの支援における両国の共同の取り組みを正式なものとしています。このMOCは、デジタル化とAIにおけるパートナーシップを強化し、両国間のデジタル接続性と貿易の成長を促進することを目指しています。
2024年4月に開催された日本・シンガポール経済対話(JSED)では、スタートアップにおける共創、オープンイノベーション、デジタル経済、サプライチェーンの強靭性、および脱炭素化を重視しています。新たな日本・シンガポール共創プラットフォームは、企業、大学、研究機関を結びつけ、共同技術開発と商業化を推進します。NUSエンタープライズのBLOCK71ネットワークは現在、東京と名古屋で運営されており、国境を越えたディープテックイノベーションとスタートアップ交流を促進しています。日本の大学や企業とのパートナーシップは、両国のスタートアップに資金、メンターシップ、および市場アクセスを提供しています。この深化する協力関係は、経済的な結びつきを強化するだけでなく、地域協力のベンチマークとなり、日本とシンガポールがアジアにおけるイノベーション、デジタル化、および持続可能な成長の未来を共同で形作ることを可能にしています。
政府間の連携も重要ですが、民間レベルでの協業も非常に重要だと考えており、GFTNはGFJなどのフォーラムを通して官民の対話を促しています。SMBCグループのようなグローバルで活躍する大きな金融機関が対話に入ってくださることでより大きなインパクトをもたらすことができると考えております。今後も日本とアジアの成長を促す仕掛けを一緒に作っていけたらと思っております。

今後、どのステージの企業とも、さまざまな形でのコラボレーションの可能性が多くあり、そしてその先に素晴らしい未来が描けるという示唆をいただきました。来年もGFJは開催予定ですが、どのような未来になっているのか、今からワクワクしています。本日はお二方ともありがとうございました。
磯和是非、グローバルなビジネスを一緒に作っていけたらと思っておりますので、引き続きのご支援よろしくお願いいたします。
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Global Fintech & Technology Network CEO
Sopnendu Mohanty氏
Global Finance & Technology Network(GFTN)の共同創設者兼グループCEO。シンガポール金融管理局(MAS)で初代チーフ・フィンテック・オフィサーを約10年間務め、シンガポールを、金融分野におけるイノベーションの主要な中心地、そしてフィンテック開発のダイナミックなハブとして世界に確立させた。現在もMASに対し、技術とイノベーションに関する助言を行なっている。
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三井住友フィナンシャルグループ 執行役専務 グループCDIO
磯和 啓雄氏
1990年に入行後、法人業務・法務・経営企画・人事などに従事した後、リテールマーケティング部・IT戦略室(当時)を部長として立ち上げ。その後、トランザクション・ビジネス本部長として法人決済の商品・営業企画を指揮。2022年デジタルソリューション本部長、2023年より執行役専務 グループCDIOとしてSMBCグループのデジタル推進をけん引。