第1章
厳しい環境下でスタートした「第2の10年」

2011年度から2016年度までの当社グループ(注1)を巡る外部環境を振り返ると、当初は東日本大震災の影響もあり、日本の経済・社会に閉塞感が強まる非常に厳しい環境下でのスタートとなった。2013年に入ると、「大胆な金融緩和」などを柱とする「アベノミクス」の下で円安・株高が進展、海外経済の回復とも相まって、わが国経済は緩やかな回復傾向に転じた。しかし、中国経済が次第に減速傾向を強めるなか、2016年初には、新興国の通貨や株価、資源価格が急落した。これを受け、日本銀行は異例のマイナス金利政策の導入に踏み切った。他方、国際金融規制の強化が進められ、国際的に活動する金融機関にとっては、自己資本の一層の充実と資本・資産効率の引き上げが経営課題となった。

1.低迷から回復に転じた日本経済

(1)閉塞感が強まる日本経済

日本経済は2009年4月以降、世界金融危機からの持ち直し局面にあったものの、大幅な需給ギャップの存在を背景に、景気の自律的回復力は弱く、緩やかなデフレ状況が持続していた。とりわけ、2010年秋以降は、IT関連財の世界的な需要減少を背景に、電子部品等の輸出が弱含んだほか、エコカー補助金終了後に新車販売が落ち込んだ結果、景気の停滞感が強まった。

そうしたなかで、2011年3月11日に発生した東日本大震災は、消費者マインドの急激な悪化と自粛ムードの広がり、サプライチェーンの寸断による供給制約等を通じて、個人消費や生産活動の大幅な落ち込みをもたらした。2011年4月以降、景気は再び持ち直しに転じたものの、電力不足が経済活動の足かせとなったほか、後述する世界的な金融市場の混乱の中で、ドル円相場が2011年10月31日に1ドル75円32銭と戦後最高値を更新するなど、歴史的な円高水準で推移したため、生産拠点の海外移転の加速による産業の空洞化懸念が強まった(図表1-1)(注2)。2012年半ばには、欧州債務問題を背景とする世界経済の減速を受けて、日本の輸出や生産が減少に転じ、日本経済は景気後退に陥った。このように世界金融危機後、日本経済の低迷とデフレ状況が長期化したため、わが国経済・社会に対する閉塞感が次第に強まった。

この間、海外では、欧州債務問題の深刻化(注3)や米国経済の先行きに対する懸念の高まり、さらには2011年8月の米国債の格下げ(注4)等を背景に、2011年夏から秋にかけて、世界同時株安、長期金利上昇、日本円の独歩高など、世界的な金融市場の混乱が生じた。ユーロ圏経済は、各国の緊縮財政による内需抑制や金融機関の与信圧縮の動き、企業や消費者のマインドの慎重化などを背景に、2011年10~12月期から2013年1~3月期にかけて6四半期連続でマイナス成長に陥った。

世界金融危機後、先進国経済が総じて低成長にとどまるなか、2008年11月に4兆元の大規模経済対策を打ち出した中国は景気をいち早く回復させ、世界経済の新たな牽引役となった。アジアや中南米をはじめとする新興国・資源国経済も、中国向け輸出の増加や先進国からの資本流入の増加、堅調な内需の拡大等を背景に、2010年以降急回復を遂げた。

図表1-1 2012年11月以降、円安傾向が進展すると日経平均株価も上昇に転じた
(図表1-1)ドル円相場と日経平均株価の推移