2.「国内業務改革」の実施

(1)「国内業務改革」の背景と概要

三井住友銀行は2012年7月、部門横断的なメンバーで「コーポレートビジネス成長戦略タスクフォース」を設置し、現状を整理したうえで、コーポレートビジネスの目指すべき方向性を検討した。

企業金融部門が担当する大企業取引では、お客さまの活動のグローバル化・クロスボーダー化と、それに伴う金融イベントの大型化・複雑化、加えてこうしたダイナミックな動きのすそ野拡大が進んでおり、相対的にビジネスチャンスが大きい分野であると考えられた。実際、企業金融部門の収益状況は改善傾向にあった。一方、中堅・中小企業を担当する法人部門では、貸金収益が緩やかに減少トレンドにあるなかで、投資銀行業務に関わるフロー収益の割合が増加していた。また、ビジネスサポートプラザ(BSP)におけるスモール法人営業は引き当てコストの増大で2007年度より赤字に転落していたが、その後、業務運営の効率性を維持しつつ、与信に際して財務スコアリングに加え、定性面も勘案することに変更したことを主因に、2011年度より黒字化していた。

こうしたなかでタスクフォースでの検討により、①ボーダレスに活動する奥行きの深い大企業に対しては、M&Aや直接調達といった投資銀行ニーズがますます増加するなか、グローバルベースでの提案・対応力をもう一段踏み込んだ強化を行う必要がある、②マンパワーが限られるなかで、純預金先や貸金ニーズのない、あるいは大きな金融イベントが発生する可能性の低い中堅企業に対するコンタクトが弱まっている、という課題が浮かび上がった。

タスクフォースでの検討に加え、経営会議メンバーでも議論を重ねた結果、三井住友銀行は2014年4月、「国内業務改革」を実施することとした。これは、「改めてお客さまの目線に立って法人営業体制を徹底的に見直すことで、顧客対応力の一層の強化を図る」ため、国内法人ビジネスを「次世代の成長モデルに変える」(國部頭取)ことを狙いとしたもので、大規模な拠点再編・営業体制の見直しを伴う組織改革は三井住友銀行発足以来のことであった。

具体的にはまず、今までよりも幅広に大企業を定義し、企業金融・法人の部門の枠を越えて大企業を集約し、営業部を再編。総合職を重点的に投入し、セクター知見を活用した「G-CIB(Global-Corporate and Investment Banking)モデル」を通じてグローバルな課題解決型提案力を強化することとした。G-CIBモデルとは、銀証・内外連携を軸とした新たな大企業ビジネスモデルを指す。実際に、営業部が13拠点から16拠点となり、人材も追加投入され、所管する企業グループ数も約400から約700に増加した。

次に、年商10億円未満のお客さまを対象としたスモール営業拠点であったビジネスサポートプラザ(BSP)を個人部門のブロック(注15)と一体化して「エリア」とするとともに、これまで法人営業部で対応してきた年商30億円未満のお客さまもエリアに移管し、地元密着による「法個一体モデル」を通じてオーナー取引等の推進を強化することとした。これまでブロックは10数ヵ店の支店を統括し、個人取引の業務推進、拠点運営機能を担っていたが、3から5支店をエリア単位にまとめ、法人、個人を所管することとした。スモール法人営業の担い手についても従来の総合職に替えて、総合職(リテールコース)を投入することとした。

そのうえで、大企業とエリア企業の間の企業については、所管する法人営業部を再編して担当者一人当たりの担当先数を減らし、お客さまにしっかりと向き合う「One to Oneモデル」を構築することとした。

お客さまの所管変更に際しては、役職員が丁寧な事前説明を行い、お客さまの様々な要望にも柔軟に対応したことで、当初懸念されたお客さまからの苦情等は限定的で、店舗・システムや引越などについても、大きな混乱は発生しなかった。

図表6-2 法人ビジネスを大企業、個社別対応企業、エリア企業という3つのセグメントに分類
(図表6-2)法人ビジネスモデルの再構築

また、国内業務改革に伴って企業金融部門、法人部門、個人部門の国内3部門は、営業部・法人営業部における大企業・個社別対応企業取引を所管する「ホールセール部門」とエリア・支店における個人取引・エリア企業取引を所管する「リテール部門」に再編された(図表6-3)。

そしてセグメント別ビジネスモデルを推進するため、ホールセール部門内に「グローバルコーポレートバンキング(GCB )本部」「コーポレートバンキング(CB)本部」、リテール部門内に「エリア企業本部」を設置し、ホールセール部門の統括機能として、法人企業統括部を母体に「ホールセール統括部」を設置した。同時にリテール部門におけるエリア企業取引を所管する「エリア企業部」を設置し、エリア企業取引の推進、業務推進、拠点指導、研修、人材育成等を実施することとした。

図表6-3 セグメント別ビジネスモデルを推進するために企業金融部門、法人部門、個人部門をホールセール部門とリテール部門に再編
(図表6-3)国内3部門(企業金融部門・法人部門・個人部門)の再編