2.リテール事業部門における取り組み

リテール事業部門が2017年6月に公表した「お客さま本位の業務運営に関する取組方針」(以下、「取組方針」)の概要は図表4-2の通り。「取組方針」と併せて、取組状況を表す計数指標も公表した。「取組方針」は、販売会社として個人のお客さま向け資産運用・資産形成コンサルティング業務に取り組む際の方針をまとめたもので、三井住友銀行のほか、SMBC信託銀行、SMBC日興証券、三井住友カード、SMBCファイナンスサービス(注10)、SMBCコンシューマーファイナンス等を対象としている。計数指標の項目など、内容は毎年見直しを行っている。

図表4-2 リテール事業部門における「お客さま本位の業務運営に関する取組方針」。取組方針として、「中長期分散投資を軸としたお客さま本位の運用提案」、「お客さま本位の商品ラインアップの整備」、「お客さま本位のアフターサービスの充実」、「お客さま本位の業績評価体系の整備」、「コンサルティング力向上に向けた取り組み」の5つを掲げた。
(図表4-2)リテール事業部門における「お客さま本位の業務運営に関する取組方針」

「取組方針」の内容は、「中長期分散投資を軸としたお客さま本位の運用提案」や「お客さま本位の商品ラインアップの整備」など、それまでリテール事業部門が取り組んできた施策や考え方を織り込んで策定したものである。たとえば、「お客さま本位の業績評価体系の整備」に関して、三井住友銀行では2015年度の業績評価において、投資信託の販売手数料率を商品にかかわらず原則として同じ料率で評価することとした。これは、お客さまのニーズに合わせた販売姿勢を確保できるようにするために導入した仕組みである。2019年度からは、「お客さま本位を軸にコンプライアンスを大前提とする業績評価体系」へと見直しを行い、お客さま本位への取り組みが前提であることを業績評価上でも明確化した。併せて、運用商品の販売額および収益額の評価を廃止して、グループ合算の運用資産残高に一本化するとともに、販売担当者個人の目標設定を廃止した。

営業において個人目標を廃止することは極めて異例であり、多くのメディアで取り上げられた。一部に業績への影響を懸念する声も聞かれたが、社長の太田はメディアの取材に対して、次のように答えた。

お客さま本位の業務運営を徹底した結果、もしも収益が低下するようであれば、それは無理をしてやっていたということ。逆に言うと、お客さまにきちんとしたコンサルティングを行い、お客さまの信頼を得て稼がせていただくというのが本来の姿なので、そこに立ち返らなければいけない。そこで落ちるような収益なら落ちてもいい、そういう考えでやっています。

振り返ってみると、結果的に、2019年度の業績に大きな影響は見られなかった。2019年度の営業最終日に、リテール部門統括責任役員は、部門の全営業拠点宛てにメールを発信し、「お客さま本位の業務運営」について「不変の最優先テーマ」としたうえで、「ビジネスは、お客さまのお役に立って初めて存在意義がある。そして、お客さま本位の徹底こそがSMBCの競争力となり、その結果として持続的な業績拡大を果たすことができる唯一の道であると考えている」として、さらなる徹底を促した。

こうした「取組方針」に沿った施策と合わせて、「お客さま本位」の考え方そのものを、役職員一人ひとりに徹底・浸透させる取り組みも継続的に実施した。全営業拠点で行われた「お客さま本位DAY」や、支店長向け「お客さま本位の業務運営研修」などがそれである。いずれも、「お客さま本位」について自ら考え、理解を深めることを目的に、ディスカッションや事例研究などが中心の取り組みとなっている。

また、「お客さま本位の業務運営に関する基本方針」の紹介動画を三井住友銀行のホームページに掲示すると同時に、「基本方針」や「取組方針」のお客さま説明用リーフレットを調製。運用提案を行う前にお客さまに説明して内容を共有することで、自ら襟を正すとともに、お客さまからの信頼向上に努めた。

(画像)『お客さま本位の業務運営に関する取組方針』説明用のお客さま向けリーフレット
「取組方針」説明用のお客さま向けリーフレット