3.SMBC日興証券の誕生と銀証連携の推進
(1)ホールセール業務立ち上げの苦難とSMBC日興証券の誕生
当社とシティグループは2009年5月、三井住友銀行が日興コーディアル証券を中心とする事業を取得することについて合意したことを公表し、2009年10月、日興コーディアル証券は三井住友銀行の完全子会社となった。

もっとも、日興コーディアル証券は、日興シティグループ証券(現シティグループ証券)の株式・債券引受業務人員、投資銀行RMの大宗を引き継いだものの、機関投資家向けセールス、デリバティブや証券化、トレーディング、リサーチ機能などは移管対象とはなっていなかった。そこで、当社および三井住友銀行、日興コーディアル証券は、日興のブランド力を維持する観点から、シティグループ証券と投資銀行業務における戦略的業務提携契約を実施し、一定の期間、シティグループがセールス&トレーディング機能や商品、クロスボーダーM&A(注18)案件への対応、国内発行体による海外市場での引き受け・販売等において協働することとした。
2009年12月末に当社と大和証券グループ本社との合弁会社である大和証券エスエムビーシーに関する合弁事業を解消することとなり、2009年10月、当社グループから大和証券エスエムビーシーに出向または転籍していた役職員は一部の者を除き当社グループに復籍することとなった。これらの復籍者が新たに日興コーディアル証券に加わるとともに、積極的なキャリア採用なども実施して、ホールセール業務基盤の強化を進めた。
こうした体制の下、復籍者も加わった債券の引き受け・トレーディングは順調に立ち上がったものの、株式業務についてセールス&トレーディング機能や機関投資家とのリレーションの弱さを背景に、立ち上げには相応の時間がかかることとなった。また、社債や株式のブックランナー(事務主幹事)(注19)については、日興コーディアル証券の販売力や事務処理能力を見極めたいというお客さまも多く、実績の積み上げに腐心することとなった。
日興コーディアル証券は、2010年4月より2010~2012年度を対象とする中期経営計画をスタートさせ、「フルライン機能を構築し、国内で確固たる存在感を持つトップクラスの証券会社となる」ことを基本方針に掲げた。そのためにもホールセール業務の早期構築と拡大に伴うリスク管理・コンプライアンス体制等の構築は大きな課題となった。ホールセール業務の早期構築においてとりわけ最優先課題となったのが、株式引受業務、セールス&トレーディング業務(特に株式セカンダリー業務、デリバティブ業務)、クロスボーダーM&Aと海外拠点の立ち上げであった。
株式引受については、事業法人部のRMへの人材投入を継続するとともに、事業法人本部と投資銀行本部との強力な連携を通じて高度なソリューション提供能力を持つ顧客カバレッジ体制の構築を進めた(注20)。さらに、重点顧客を選定し、セグメント別に顧客戦略を実行することとした。
セールス&トレーディングに関しては、システム構築を着実に進めるとともに、2010年8月に株式調査部が業務を開始するなど、セールス、アナリストによる継続的な情報提供の充実に努めた。さらに、内外機関投資家の開拓を推進した。
2010年10月にロンドン(注21)、ニューヨーク(注22)、2011年1月に香港、上海において、日本株のブローカレッジ、M&Aアドバイザリー、債券業務等のリスクが限定的な業務を開始した(上海はクロスボーダーM&Aサポート業務を開始)。その結果として概ね2013年度までには、海外5拠点で株式のグローバルオファリングに対応できる体制を整備することができた。債券業務においても、International Financing Review(IFR)誌より「Yen Bond House of the Year 2013」を受賞するなど、海外発行体と国内投資家をつなぐ体制を構築するに至った。
クロスボーダーM&Aについては、海外の投資銀行と大型案件に関する連携を強化するとともに、クロスボーダー案件に対応できる人材の採用・投入を進めてSMBC日興証券の海外拠点の態勢強化を通じた案件の獲得を進めた(注23)。
2011年4月、日興コーディアル証券は、名実ともに当社グループ入りを象徴するSMBC日興証券に改称した。「日興」ブランドの価値、日興コーディアル証券役職員のモチベーションを重視しつつ、日興コーディアル証券が当社グループの一員として銀証融合ビジネスを強力に推進していくことを内外にアピールすることが改称の狙いであった。
改称に先立つ2010年9月の機関決定後、日興コーディアル証券社長の渡邉英二は社員に対し、次のように述べた。
当社は、グループ内で中心となって証券業務を担えるように、フルラインの総合証券会社として海外を含むホールセール分野の再構築を進めておりますが、業務機能が整うに従って、証券市場における存在感も確実に高まっております。社名変更は、こうした流れを一層加速させるとの意義をもった決定です。加えて、グループ内での一体化の進展が、より革新的な銀証融合の形をもって実現していく契機となればと考えております。
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第1章不確実性が増す外部環境
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第2章新たなガバナンスの下でのグループ・グローバル経営の強化
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第3章「カラを、破ろう。」
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第4章「お客さま本位の業務運営」の徹底
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第5章リテール金融ビジネスにおけるビジネスモデルの変革
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第6章ホールセールビジネスにおける真のソリューションプロバイダーを目指して
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第7章グローバル・プレーヤーとしての進化
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第8章高まる不透明感の下での市場ビジネスの進化
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第9章アセットマネジメントビジネスの強化
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第10章デジタル戦略の本格展開
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第11章G-SIBsとしての内部管理態勢の確立
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第12章業務インフラの高度化
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第13章グループ経営を支える人事戦略
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第14章持続可能な社会の実現に向けた取り組み
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第15章「コロナ危機」への対応
- おわりに