(2)マネロン・テロ資金供与対策の強化

マネー・ローンダリング対策およびテロ資金供与対策(マネロン・テロ資金供与対策)は、一国のみが規制を強化しても、相対的に規制の緩い国で行われる傾向にあることから、実効的な対策には国際的な協調が不可欠である。そこでマネロン・テロ資金供与対策に関しては、政府間組織である「金融活動作業部会(FATF:Financial Action Task Force)」(注6)が国際的な対策強化を主導してきた。

わが国も、国際社会と歩調を合わせてマネロン・テロ資金供与対策の強化を図るなか、2007年3月、犯罪収益移転防止法(注7)を制定した(2007年4月一部施行、2008年3月全面施行)。同法は、本人確認法(注8)(2002年4月制定)と組織的犯罪処罰法(注9)(1999年8月制定)を統合したうえで、2003年6月のFATFによる「40の勧告」(注10)の改訂等を踏まえて、本人確認や疑わしい取引の届出義務の対象を、金融機関のみならず、ファイナンスリース業者やクレジットカード業者等にも拡大するものであった。

FATFは2008年に日本の法令整備状況を審査する「第3次対日相互審査」(注11)を実施し、同年10月、審査結果を公表した。それによると、日本は、マネー・ローンダリング対策に関する「40の勧告」およびテロ資金供与対策に関する「9の特別勧告」(注12)のうち、10の勧告について「不履行(NC: Non-Compliant)」という極めて厳しい評価を受けた。

FATFの指摘を受けて、2011年4月、犯罪収益移転防止法が改正され、2013年4月に全面施行された。改正法は、「本人確認」を「取引時確認」と名称を変更したうえで、取引時確認における確認事項を追加した(注13)。金融機関等に対しては、従来から課されていた「取引時確認」「記録の保存」「疑わしい取引の届出」の義務に加えて、従業員に対する教育訓練の実施など、取引時確認等を的確に行うための措置を講じることが努力義務として規定された。

三井住友銀行は、2007年4月に「マネー・ローンダリング等防止管理規程」を重要規程として制定し、マネー・ローンダリングやテロ資金供与を防止するための基本指針として、遵守すべき基本事項や取り組むべき施策等を明確化し行内体制を整備していた。しかし、2013年4月に全面施行される改正犯罪収益移転防止法の銀行実務に与える影響が非常に大きいと考えられたことから、2011年12月、ワーキング・グループを立ち上げ、新しい申込書等の事務手続、お客さまへの広告や店頭での応対のための研修、お客さまから得た情報の記録作成・保存のためのシステム構築、SMBCダイレクトなど非対面チャネルでの対応、海外拠点における対応、従業員向けの研修実施等の対応を進めた。2012年末からは一般社団法人全国銀行協会によるテレビ・新聞広告と併せて、三井住友銀行でも店頭でのポスターやチラシによる広告のほか、お客さまへのダイレクトメールやインターネットを通じて周知徹底を図った。

しかし、犯罪収益移転防止法改正をはじめとする日本政府の法整備に対するFATFの評価は依然として厳しく、FATF は2014年6月、「日本が指摘された多くの深刻な不備事項をこれまで改善してこなかったことを懸念している」として不備への迅速な対応を促す声明を公表した。日本政府は2014年11月、犯罪収益移転防止法を再改正(2016年10月施行)し、「疑わしい取引」の判断方法の明確化や特定事業者が行う体制整備等の努力義務の拡充等を規定するとともに(注14)、改正テロ資金提供処罰法(注15)および国際テロリスト財産凍結法(注16)を成立させた。

当社は、マネロン・テロ資金供与対策関連の規制強化への対応として、グループ会社との会議を開催するなどして、規制動向や当社の対応方針をグループ各社と共有するとともに、当社・三井住友銀行の関連部がグループ各社の規制対応をサポートすることで、グループベースでの管理態勢の強化を図った。同時に、米国OFAC(Office of Foreign Assets Control)規制をはじめとする海外規制の域外適用の強化を背景に、当社は2014年4月、総務部内にプロジェクトチームを立ち上げ、外部コンサルティング会社の協力も得て、グローバル規制水準のコンプライアンス態勢の整備に向けた見直しを開始した。

プロジェクトチームは2015年2月、「AML高度化プロジェクト」を策定し、2017年度までの3ヵ年で、①組織・体制、②プロセス管理、③業務・インフラの3つの切り口からグローバル規制をほぼ満たす水準の態勢を国内外一体で整備することとした。「AML高度化プロジェクト」は、2017年度までに当初設定した目標をほぼ達成することができたものの、継続的顧客管理(注17)等についてはFATFの求める水準と依然ギャップを残すこととなった。

図表10-1 組織・体制、プロセス管理、業務・インフラに関する管理態勢の高度化の取り組み
(図表10-1)「AML高度化プロジェクト」における主な取り組み