(3)その他海外規制への対応
2010年代に入ると、海外における規制強化の動きがわが国金融機関にも波及して管理態勢の強化を迫られるケースが増加した。その一つが、米国財務省外国資産管理室(OFAC:Office of Foreign Assets Control)が定めるOFAC規制への対応である。OFACは外交政策や安全保障上の目的から、特定の国・地域や個人・団体等に対して取引禁止や資産凍結などの制裁措置を講じており、これら特定の国・地域、個人・団体等が関与する米ドル建ての取引、米ドル建て以外の取引でも米国金融機関や米国法人、米国人等が関与する場合は、OFAC規制の対象となる。国際社会に対するテロの脅威が高まるなか、2010年代に入ると、OFAC規制に違反する金融取引を行ったとの理由で、米国が外国銀行に対して高額の罰金を科すケースが相次いだ(注18)。
三井住友銀行は2007年6月に「OFACコンプライアンス手続」を制定し、遵守態勢を整備していたが、グローバルにビジネスが拡大するなかで、OFAC規制違反懸念のある外国送金取引等の実行を未然に防ぐため、日常の営業活動においてお客さまの商流等の把握に努めるとともに、行内研修の強化やお客さまに対するOFAC規制に関する周知・徹底に努めた。
また、米国は2010年3月、外国口座税務コンプライアンス法(FATCA:Foreign Account Tax Compliance Act)(注19)を成立させ、2014年7月より適用を開始した。これにより、わが国金融機関は、お客さまが「米国人等」に該当するかを確認し、該当する場合には、お客さまの同意の下、口座情報を毎年米国の税務当局である内国歳入庁(IRS:Internal Revenue Service)へ報告することとなった(注20)。三井住友銀行も2014年7月、「FATCA遵守規則」を制定し、FATCAおよび関連法令等を遵守するために必要な方針手続、業務プロセスを含むコンプライアンス体制を整備した。
さらに当社は、外国公務員贈賄を含む不正・腐敗問題に対する世界的な意識の高まり(注21)と2010年11月の米国ニューヨーク証券取引所への上場、さらには2011年7月の英国賄賂防止法(Bribery Act)(注22)施行などを踏まえ、贈収賄防止体制の一層の高度化を進めた。
具体的には、三井住友銀行は2013年7月、「贈収賄の防止及び接待贈答等に関する規則」を制定し、法令上の義務等、全行的に遵守すべき事項を明確化するだけでなく、贈収賄を未然に防止するためにモニタリングを実施し総務部が検証するとともに、贈収賄防止に向けた研修を定期的に実施することとした(注23)。2016年3月には、当社が「贈収賄の防止及び接待贈答等に関するSMFGグループ規程」を重要規程として制定し、贈収賄禁止等の基本方針や管理体制のグループベースでの徹底を図った。三井住友銀行もこれに則り、2016年5月、「贈収賄の防止及び接待贈答等に関する規程」を重要規程として制定し、グローバルベースでその徹底を図った。
その他、2010年代になると、一部の多国籍企業による租税回避行為が問題視されるようになった。OECD(経済協力開発機構)は2012年6月、「税源浸食と利益移転(BEPS:Base Erosion and Profit Shifting)による租税回避行為を防止すべく、「BEPSプロジェクト」を立ち上げ、2013年7月に15の行動で構成される「BEPS行動計画」、2015年10月にBEPS最終報告書を公表した。多国籍企業は、これに基づき、内部取引等の情報を各国当局に提出することが義務づけられるとともに、二国間のグループ内取引に関する移転価格税制への対応を明確化することが求められた。そこで当社は2016年4月、二国間のグループ内取引について、移転価格税制を遵守することを目的に、「移転価格管理規則」および「移転価格管理手続」を制定した。また、適切な税務コンプライアンスの確保を狙いとして、当社は2017年12月に「グループタックスボリシー」を重要規程として制定した。さらに、2018年4月にグループ・グローバルベースでの税務コンプライアンス強化および税コストの管理強化を狙いとして、当社財務部および三井住友銀行財務企画部に「税務室」を設置した。
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第1章不確実性が増す外部環境
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第2章新たなガバナンスの下でのグループ・グローバル経営の強化
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第3章「カラを、破ろう。」
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第4章「お客さま本位の業務運営」の徹底
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第5章リテール金融ビジネスにおけるビジネスモデルの変革
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第6章ホールセールビジネスにおける真のソリューションプロバイダーを目指して
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第7章グローバル・プレーヤーとしての進化
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第8章高まる不透明感の下での市場ビジネスの進化
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第9章アセットマネジメントビジネスの強化
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第10章デジタル戦略の本格展開
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第11章G-SIBsとしての内部管理態勢の確立
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第12章業務インフラの高度化
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第13章グループ経営を支える人事戦略
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第14章持続可能な社会の実現に向けた取り組み
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第15章「コロナ危機」への対応
- おわりに