第10章
内部管理態勢の強化

米国サブプライム住宅ローン問題に端を発する世界金融危機の大きな教訓の一つは、金融機関が実効性ある内部管理態勢を構築して業務の健全性と適切性を確保することの重要性であった。翻って当社グループ(注1)においては、グループ・ビジネスの拡充やグローバル展開を本格的に進めるなかで、経営を取り巻くリスクはますます多様化・複雑化する方向にあった。そこで当社グループは、各種業務を引き続き力強く推進していくためにも、コンプライアンス態勢やリスク管理態勢等の内部管理態勢の強化が不可欠であるとの認識の下、内部管理態勢の強化に取り組んだ。

1.コンプライアンス態勢の強化

当社グループが銀証連携やグローバル展開を強化する過程では、グループ・グローバルベースでのコンプライアンス態勢の強化、とりわけ、内部者(インサイダー)取引や法人関係情報(注2)の管理態勢の強化に加え、マネー・ローンダリングおよびテロ資金供与対策をはじめとする国際的な規制強化の流れへの対応が重要課題となった。

(1)内部者(インサイダー)取引・法人関係情報管理態勢の強化

証券取引等監視委員会は2012年4月、SMBC日興証券に対する検査の結果、法人関係情報管理態勢の不備や不適切な勧誘行為が認められたとして金融庁に行政処分を行うよう勧告した。金融庁は同月、SMBC日興証券に対する業務改善命令を発出し、これを受けてSMBC日興証券は再発防止に向けた改善策を公表した。

具体的な改善策として、SMBC日興証券は2012年4月、その取締役会の諮問機関であるコンプライアンス委員会に「法人関係情報管理強化部会」を設置するとともに、売買管理部に法人関係情報管理課を新設し人員の増強を図ることで、法人関係情報管理態勢を整備・維持するとともにモニタリング態勢を強化した。さらに、全役職員を対象とする研修を年1回実施するなど、法人関係情報管理に関する研修の強化・充実を図った。5月には、①法令違反および社内ルール違反に対する厳罰化、②法人関係情報伝達手続きの厳格化、③異例事項の報告および内部通報の重要性の周知徹底、④社内メールおよび社内会議のモニタリング強化など、さらなる改善・強化策を含む業務改善計画を策定・公表した。

こうしたなかで2012年6月、三井住友銀行から出向していたSMBC日興証券の元執行役員が、株式公開買付け(TOB)を巡る内部者(インサイダー)取引事案で逮捕された。当社グループの社会的信頼はもとより、金融業界全体の信頼をも損なう一大痛恨事であった。SMBC日興証券は同日、調査委員会を設置し、講ずべき対策を可及的速やかに策定することとした。同年8月、SMBC日興証券は、調査委員会報告書の提出を受けて、①証券業務未経験役社員への法人関係情報管理を含む法令遵守意識の徹底、②中途入社(出向者を含む)の執行役員以上の役員登用の手続きの明確化、③出向者の不芳情報に関する情報共有、④インサイダー取引防止へのさらなる意識づけの強化などを柱とする再発防止策を策定した(注3)

出向元の三井住友銀行も、こうした事態を招いたことを重く受け止め、SMBC日興証券の再発防止策、体制整備等が実効性をもって実施されるよう、同社と連携して対応するとともに、行内に専門の対応チームを立ち上げ、情報管理態勢の一層の強化を実施した。

具体的に三井住友銀行は2012年10月、就業規則を改定し、故意もしくは重大な過失により「法人関係情報等管理規則」に違反して法人関係情報の伝達を行う行為等を懲戒解雇事由に追加した。2012年11月には、総務部金融商品コンプライアンス室内に専門の「情報管理グループ」を設置し、法人関係情報(重要情報を含む)の管理体制を強化した。さらに2012年12月には、「内部者取引管理規則」「法人関係情報等管理規則」「政策投資先重要情報の管理・報告手続」を整理・統合し、新たに「内部者取引管理・法人関係情報管理規則」(注4)「株式等の売買等に関する手続」を制定し、重要情報および法人関係情報の区分を撤廃して管理の一元化や法人関係情報の伝達ルールの整備を行った(2013年1月適用開始)。2013年10月には「法人関係情報等管理システム」を改定し、法人関係情報の管理をシステム面から強化した。

そのほか、三井住友銀行では、法人関係情報に触れる機会の多い部署の役職員には、基本的な誓約書に加えて、法人関係情報の取扱いに関して留意すべき事項をより詳細に記載した「特定誓約書」を徴求するとともに、証券業務のコンプライアンスに関する研修を強化するなどの取り組みを通じ、役職員の法令遵守意識の一層の向上と行内規律の徹底を図った。また、携帯用小冊子『法人関係情報一覧』の配布に加えて、法令諸規則や行内規程の解説に加え、法人関係情報の該当性の判断基準、伝達の必要性の判断基準、具体的な事例なども盛り込んだ『内部者取引管理・法人関係情報管理ハンドブック』をイントラネットに掲示した。

当社も2012年10月、就業規則を改定して懲戒解雇事由を追加するとともに、内部通報規則を改定し、全グループ会社の従業員等が自社の内部通報窓口に加えて当社の内部通報窓口(SMFG グループアラームライン)(注5)に通報できる体制とした。