4.「サステナビリティ」に対する世界的な危機感の高まり

2015年以降、気候変動や所得格差の拡大など、環境や経済・社会の持続可能性(サステナビリティ)に対する危機意識が世界的に高まるなか、企業においても社会貢献活動にとどまることなく、本業を通じ、持続可能な社会の実現に主体的かつ積極的に貢献すべきである、との認識が次第に広がった。その背景には、次のような一連の流れがあった。

1つ目は、2015年9月の国連総会において「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」(2030アジェンダ)が全会一致で採択され、2030年までの「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成に向けた行動が求められたことである。SDGsは17のゴール、169のターゲットで構成され、その達成には、国や国際機関のみならず、企業や組合、NPO等、多様なセクターが積極的に役割を果たすことが求められた。

(画像)17の「持続可能な開発目標(SDGs)」のロゴ
17の持続可能な開発目標(SDGs)

2つ目は、2015年12月に2020年以降の温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組みとして「パリ協定」が採択されたことである。パリ協定では、産業革命以降の世界的な平均気温の上昇を2℃未満に抑える(2℃目標)とともに、1.5℃未満に抑える努力を継続する、そのためにも、可能な限り早期に世界の温室効果ガス排出量をピークアウトさせ、21世紀後半には温室効果ガスの排出量と吸収量をバランスさせる(カーボンニュートラル、「脱炭素化」)という長期目標が定められた(注23)

3つ目は、年金基金や資産運用会社といった機関投資家が、投資先企業の選定や企業との対話において、企業の財務情報だけでなく、ESG(環境、社会、ガバナンス)要素をより重視した投資姿勢を強めたことである。わが国でも、2015年9月に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が国連の「責任投資原則」(PRI:Principles for Responsible Investment)(注24)に署名したことを契機に、機関投資家によるESG投資が拡大した(注25)

上記のような世界的な流れのなか、わが国では、2017年11月に一般社団法人日本経済団体連合会が企業行動憲章を改定し、会員企業に対して持続可能な社会の実現を牽引する役割を担うよう求めるとともに、企業経営者に対し持続可能な社会の実現に対するコミットメントの表明と経営にSDGsを組み込むよう求めた。

さらに、気候変動問題が人類の生存を脅かす喫緊の課題(「気候危機」)であるとの認識が急速に広がるなか、菅(義偉)首相は2020年10月、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、いわゆる「2050年カーボンニュートラル」の実現を目指すことを宣言した(注26)。また、日本政府は2021年4月、2050年目標を踏まえ、2030年度に温室効果ガスを2013年度比で46%削減する新たな温室効果ガス削減目標(注27)を表明した。こうしたなか、わが国企業においても、気候変動問題や脱炭素社会の実現に向けた積極的な取り組みが強く求められるようになった。