(2)アベノミクス相場に対応したポートフォリオ・リバランス
日本では2012年末からアベノミクスが始まり、金融市場は日本株高、円安へ大きく反転した。三井住友銀行の市場営業部門は、このトレンド転換を早期に、かつ積極的に捕捉した。
2012年12月16日に実施された衆議院議員総選挙の結果、自民党・公明党で合わせて全議席の3分の2を上回り、政権は民主党から自民・公明の連立政権へ移行した。12月26日に発足した第二次安倍内閣は政策方針として「三本の矢」を打ち出し(第一の矢:大胆な金融政策、第二の矢:機動的な財政政策、第三の矢:民間投資を喚起する成長戦略)、日本銀行も政府と政策を連携することとなった。2013年1月、政府・日銀の共同声明として「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政府・日本銀行の政策連携について」が公表されるとともに、日銀は「物価安定の目標」を新たに導入したうえで、目標を消費者物価の前年比上昇率2%と定めた。
2013年3月に白川総裁に代わって日銀総裁に就任した黒田総裁の下で、日銀は同年4月、「量的・質的金融緩和」の導入を決定した。この政策は、①2年を目途に2%の物価安定の目標を達成、②マネタリーベースおよび長期国債・ETFの保有額を2年間で2倍に拡大、③長期国債買入れの平均残存期間を2倍以上に延長、の3点を目標とし、「異次元緩和」と呼ばれる大胆な政策であった。
欧州債務危機など世界金融危機後も続いたグローバルな先行き不透明感に加え、日本では2011年3月の東日本大震災の発生、および円高進行などもあり、日経平均株価は1万円を下回る水準まで下落していた。しかし、アベノミクスの始動により、デフレ脱却と日本経済の回復への期待から相場は反転し、海外投資家による買いが先行する形で日経平均株価は2012年末の1万395円から2013年3月末には1万2,397円まで大幅に上昇した。また、外国為替市場では、2011年夏以降、対ドルで80円割れまで円高が進行したが、一気に円安トレンドへ反転し、2013年5月には100円超えとなった。
三井住友銀行の市場営業部門は、政権交代に伴う政策の大きな転換に際して、ポートフォリオを早期に、かつ大胆に切り替えた。すなわち、アベノミクスの下では、国債利回りの低位推移による運用益の低下、国内株式相場の上昇、ならびに円安トレンドへの転換が生じると予想し、円債ポートフォリオを縮小する一方、日本株(株式インデックス)への投資を増やすと同時に、外国為替のトレーディングでは円安トレンドを捉えるポジションを大きく膨らませた。このオペレーションの結果、2013年度の市場営業部門の業務純益は前年度対比約10%の増益となった。
2014年4月には消費税率の引き上げが実施され、4~6月期実質GDPは前期比マイナスとなった。海外でも、FRBによる量的緩和の縮小や中国経済の減速懸念などの不透明感があり、2014年は株式市場や為替市場の動きは小さくなった。こうしたなか、2014年10月、日銀は量的・質的緩和の拡大を決定した(マネタリーベースを年間約80兆円増加、ETFを年間約1兆円から約3兆円ペースへ買入れ額拡大)。日銀によるサプライズの追加緩和の実施を受け、為替相場は120円台へ円安・ドル高が進み、1万4千円台まで一時下落していた日経平均株価も、日銀のETF購入拡大を受けて2014年末には1万7千円台、2015年4月には、2000年4月以来ほぼ15年ぶりとなる2万円台まで上昇した。市場営業部門は、再び、日本株の上昇と円安トレンドを捕捉し、2014年度の業務純益は再び前年度対比約10%の増益となった。
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第1章不確実性が増す外部環境
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第2章新たなガバナンスの下でのグループ・グローバル経営の強化
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第3章「カラを、破ろう。」
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第4章「お客さま本位の業務運営」の徹底
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第5章リテール金融ビジネスにおけるビジネスモデルの変革
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第6章ホールセールビジネスにおける真のソリューションプロバイダーを目指して
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第7章グローバル・プレーヤーとしての進化
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第8章高まる不透明感の下での市場ビジネスの進化
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第9章アセットマネジメントビジネスの強化
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第10章デジタル戦略の本格展開
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第11章G-SIBsとしての内部管理態勢の確立
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第12章業務インフラの高度化
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第13章グループ経営を支える人事戦略
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第14章持続可能な社会の実現に向けた取り組み
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第15章「コロナ危機」への対応
- おわりに