(2)「異次元金融緩和」の下での景気回復

東日本大震災に伴うサプライチェーンの混乱等が徐々に収まるなかで、日本経済にとり大きな転機となったのが、2012年11月の野田首相による衆議院解散表明であった。その翌日から市場は金融政策の転換を織り込む形で、円安・株高が進行した。2012年12月に第二次安倍政権が発足すると、安倍首相は、最大かつ喫緊の課題は経済の再生であるとして、「大胆な金融緩和」「機動的な財政出動」「民間投資を喚起する成長戦略」からなる「三本の矢」で経済再生を目指す方針を打ち出した(いわゆる第一弾の「アベノミクス」)。

新政権の方針を受けて、日本銀行は2013年1月、「物価安定の目標」を消費者物価の前年比上昇率で2%とする、いわゆる「インフレ・ターゲット」を導入するとともに、政府との共同声明を公表し、デフレからの早期脱却と物価安定の下での持続的な経済成長の実現に向けて、政府と日本銀行の政策連携を強化し、一体となって取り組むことを表明した。

2013年3月に黒田新総裁の下で新体制が発足すると、日本銀行は翌月、「量的・質的金融緩和」の導入に踏み切った。「量的・質的金融緩和」とは、①「物価安定の目標」を2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現するため、②金融政策のターゲットを無担保コールレート(オーバーナイト物)からマネタリーベース(注5)に変更するとともに、③大量の国債買入れやETF(注6)、J-REIT(注7)の購入に踏み切るもので、「量的にも質的にもこれまでとは次元の違う金融緩和」(黒田総裁)と位置づけられた。

政権交代に伴う政策転換は、2012年後半以降の米国経済の持ち直しや欧州債務危機の落ち着きとも相まって、中期的な円安・株高基調をもたらした。ドル円相場は、2013年1月に1ドル90円台、5月には同100円台まで下落した。日経平均株価も、2012年12月に1万円台を回復し、2013年5月には1万5千円台まで上昇した。これに伴う家計や企業の景況感の改善、世界経済の回復に伴う輸出の持ち直しなどを背景に、国内景気は2012年11月を景気の谷として緩やかな回復傾向に転じた。消費者物価(総合)も、2013年6月には前年同月比プラスに転じ、アベノミクスはデフレからの脱却に一定の成果を挙げた。

2014年4月に消費税率が5%から8%へ引き上げられると、駆け込み需要の反動減から、生産を中心に一時的に弱めの動きとなった。もっとも、企業収益や所得・雇用環境の改善が個人消費や設備投資の増加をもたらす「経済の好循環」が回り始めたほか、先進国主導の世界経済の回復もあり、緩やかな景気回復基調が持続した(図表1-2)。

図表1-2 2013年度に名目GDP成長率はプラスに転じた
(図表1-2)わが国の名目・実質GDP成長率の推移