第4章
決済・コンシューマーファイナンスビジネスにおける将来への布石

1.激変する個人向け決済ビジネス

決済を取り巻く環境は、2010年代において劇的に変化した。その背景には、情報技術の飛躍的進歩によるデジタル社会の到来があった。従来から利用されていたクレジットカード、デビットカード、電子マネー等に加え、スマートフォンの普及に伴うQRコード決済の浸透、さらにはフィンテックによる技術革新などにより決済手段は多様化し、その分、競争も激化している。

当社グループ(注1)では、三井住友カードおよび SMBCファイナンスサービスを中心に、激変・激化する個人向け決済ビジネスに取り組んでいる。

(1)三井住友カードの取り組み

三井住友カードとSMBCファイナンスサービスの合算で見た買物取扱額や加盟店数は、ともに国内トップクラスのシェアとなっているものの、楽天カードやイオンクレジットサービスなど商圏と結びついたカード会社が急成長しており、クレジットカードビジネスの競争は厳しさを増している。三井住友カードにとってこの10年は、会員獲得強化や利便性の向上などにより既存ビジネスの増強を図る一方で、激変する市場への対応を進め、併せて次期システムの開発や次世代決済プラットフォーム構築など将来に向けた重要な一歩を踏み出した期間であった。

既存ビジネスの増強策としては、ターゲットを若者に絞った「三井住友VISAデビュープラスカード」(2012年4月)やAmazonとの提携による「Amazon Mastercard」(2014年2月)など新たなクレジットカードの発行により会員を増やすとともに、「三井住友カードWEB通知書サービス」(2014年3月)やスマホ用アプリケーション「Vpassアプリ」の提供(2014年3月開始、以降随時リニューアル)、「Apple Pay」への対応(2016年10月)(注2)などにより会員の利便性を向上させた。また、カードの表面に記載されていたカード情報を裏面に集約(2020年2月)し、最終的には券面への記載そのものをなくしたナンバーレスカード(注3)を発行(2021年2月)するなどセキュリティ向上も図った。このほか新規会員獲得のためにWeb広告などを拡充し、Webチャネルからの入会を強化した。加盟店向け施策としては、CLO(Card Linked Offer)(注4)を活用したサービス「ココイコ!」(注5)の開始(2016年9月)などがある。

(写真)アマゾンジャパンとの提携によるアマゾンマスターカードの券面
Amazonとの提携による「Amazon Mastercard」
(画像)加盟店向けサービス、ココイコのロゴマーク
「ココイコ!」のロゴマーク

一方、新たな決済手段の台頭も著しい。決済手段が多様化するなか、三井住友カードでは、全ての決済手段に対応していることがお客さまの安心感につながるとの考えの下、NFC(近距離無線通信)(注6)やQRコード決済など幅広く対応を進めていった(図表4-1)。

図表4-1 プリペイドカードやデビットカードなど、三井住友カードが実施した、各種決済手段への対応事例一覧表
(図表4-1)各種決済手段への対応事例

中でも「SMBCデビット」は、三井住友銀行と三井住友カードが共同開発を行い、三井住友カードが発行体となるもので、「デビットカードは銀行が発行する」という業界の常識を覆すことで、多くの加盟店で利用可能となる革新的なスキームとなっていた。2018年3月には、キャッシュカードとデビットカードを1枚にまとめたいとのお客さまの要望に応え、キャッシュカード一体型の「SMBCデビット」の発行を開始した。

また、三井住友カードでは、決済ビジネスのさらなる拡大を見据えて、将来への布石も打った。とりわけ重要な戦略が、フィンテックへの早期着眼と次期システムの構築である(注7)

三井住友カードでは、1993年10月から基幹システム「SUMMIT」(注8)(サミットシステム)を使用していたが、市場の急成長に伴う業容拡大やインターネットの普及、新たな決済手段の登場などにより見直しが不可避となっていた。そこで2005年1月に、三井住友カードと日本総合研究所が協働でプロジェクトチームを立ち上げて検討に着手。その後、貸金業法や割賦販売法の改正など環境変化を織り込みながら開発が進められた。

次期システムへの移行は、安定性・安全性を考慮して段階的に行われた。2010年10月の「次期会員入会システム」に始まり、2014年3月「次期情報系システム」、2015月1月のホストコンピュータ全面更改、2016年10月「次期ファイナンスシステム」などが順次進められ、2017年3月に全てのシステムがリリースされた。次期システムへの移行により、現行の各種取引の機能が強化されるとともに、将来の大幅な取引量増加への対応が可能となった。