2.海外ビジネスを支える外貨調達力の強化

(1)外貨調達の課題と対応

三井住友銀行の市場営業部門は、世界金融危機の発生前の2007年度上期に、保有していたサブプライムローン関連の証券化商品等の大半を売却した。このため、三井住友銀行の財務面への世界金融危機の直接的影響は限定的であった。2009年以降、世界経済が回復し始めると、三井住友銀行は、財務基盤の相対的な優位性を活かして、成長性が日本に比べて高い海外での貸出等を積極化し始めた。一方で、貸出等の外貨建資産の急拡大に見合う外貨資金の調達には課題があった。

海外貸出等の増加によって外貨調達の必要額が増しただけではなく、資産・負債の期間ミスマッチを抑えるためには中長期調達を増やす必要があった。加えて、インターバンク調達は、平時においては銀行間の信用に基づく安定的で低コストの調達手段ではあるものの、金融市場に強いストレスが発生した場合には不安定かつ高コストの調達となるリスクがある。このため、市場性の外貨調達においても短期調達を中心とする調達構造からのシフトが課題となった。

国際金融規制も中長期調達の増加を加速させる一因となった。2007年夏の金融市場の動揺や2008年秋以降の世界金融危機の際には、欧米では流動性危機に直面し、経営破綻や公的資金注入を必要とした金融機関があった。この経験を踏まえてバーゼル銀行監督委員会は2010年、流動性規制を導入することを発表しており、その柱の一つが「バーゼルⅢ安定調達比率」であった。安定調達比率(NSFR:Net Stable Funding Ratio)の規制は、流動性の低い資産(1年以内の資金化が困難な資産)を保有する場合に、それに見合う安定的な調達(残存期間が1年以上の調達)を求めるものである。NSFRは「所用安定調達額(資産)」に対する「利用可能な安定調達額(資本+預金・市場性調達)」の割合として算出され、その数値を100%以上とすることが求められる(注11)

NSFRは円貨と外貨を別建てで算出することを求めていないが、当初、別建てで適用されるとの観測があったほか、外貨建資産・調達と円貨建資産・調達を分けて管理するほうが理にかなっているとの考えもあり、外貨調達構造の見直しの際にNSFRが重要な指標とされた。日本におけるNSFRの適用開始は2018年とされていたが(注12)、安定的な外貨調達を継続するために必要となる海外でのIR(Investor Relations:投資家向け広報)の強化や外貨建社債発行の実績積み上げには年単位の長い時間がかかる。海外での貸出拡大と流動性規制の導入を見越して早期に対応を始める必要があるとの経営判断の下、三井住友銀行は2010年7月、三井住友銀行初となる海外機関投資家向けの外貨建シニア債(20億ドル・期間3年) (注13)を発行した。