第3章
個人/リテールビジネスの選択と集中

1.個人ビジネスの構造改革

三井住友銀行は、合併以来、個人金融分野に関わる規制緩和を好機と捉え、保険の窓口販売や証券仲介業務(注1)、遺言信託業務など業務範囲を拡大し、他行を圧倒する実績を挙げ、業績を伸ばしてきた。しかしながら、高齢化の進展に伴う個人金融資産残高の伸び率鈍化に加え、2008年の世界金融危機による株価の急落とその後の景気停滞に伴う名目可処分所得の低迷、金利低下による金利収入の減少などにより、 2008年度以降、個人部門(現リテール部門)の業績は横這いから微減の状態となっていた。

そこで、2011年度からの中期経営計画において「5つの戦略事業領域」の一つとした「個人向け金融コンサルティングビジネス」を強化すべく、「個人ビジネスの構造改革」に着手した。まず、2012年7月に全行ベースで立ち上げた成長戦略プロジェクト(注2)の一つとして、「銀証リテール一体化タスクフォース」と「相続ビジネスタスクフォース」を設置し、成長余力の大きい2つの領域におけるビジネスモデルの検討を行った。「銀証リテール一体化タスクフォース」では、三井住友銀行とSMBC日興証券が個別に資産運用ビジネスを行っていたそれまでの「独立型モデル」を見直し、銀証それぞれの強みを活かして、グループベースでお客さまの付加価値を極大化する「銀証リテール一体化モデル」(注3)について検討を行った。「相続ビジネスタスクフォース」では、高齢化の進展により相続準備対応ニーズが増加しつつあることを踏まえ、メガバンク唯一の兼営信託銀行であることを活かした相続ビジネスの強化策について検討を行った(注4)

また2013年4月には、個人部門統括責任役員を委員長とする構造改革委員会を設置し、さらなる「個人ビジネスの構造改革」を進めることとした。同委員会では、「コンサルティングの基本への回帰(=お客さま本位の再徹底)」「顧客基盤拡充・ストック増強への転換」「新しいビジネスモデルの構築」という基本的な考え方を改めて明確化し、それに沿った様々な戦略・施策を具体化していった。

新たな中期経営計画が打ち出された2014年度には、「4つの経営目標」(注5)の一つである「内外主要事業におけるお客さま起点でのビジネスモデル改革」を個人ビジネスにおいて進めるために、「リテール戦略クロス・ファンクショナル・チーム」を立ち上げ、国内業務改革(注6)で新設したエリア体制を前提にしたビジネスモデルの構築および資産形成層ビジネス強化について検討を行った。

構造改革委員会やリテール戦略クロス・ファンクショナル・チームにおいて、中長期的に競争力を維持し、持続的成長を可能とするための課題の一つとされたのが、リスク性商品の残高の伸び悩みだった。その背景には、2つの要因が考えられた。一つは、政府の「貯蓄から資産形成へ」という流れに沿うような、新しいお客さまを増やせていないのではないかという点。もう一つは、リスク性商品を保有しているお客さまに対する乗り換え提案が増えているのではないか、その結果としてお客さまの資産残高拡大に十分貢献できていないのではないかという点が懸念された。

こうした問題意識に基づき、三井住友銀行では、成長領域である銀証リテール一体化モデルの構築および相続ビジネスの強化を推進する一方で、リスク性資産の残高をベースとする資産管理型ビジネスへの変革(注7)を進めるとともに、マーケティングの強化などによるお客さま拡大に向けた取り組みの強化(注8)を図った。