(2)リテール業務戦略に沿った人事運営・制度の見直し 

三井住友銀行発足当初、個人部門の営業担当者等は男性総合職が大半を占めていたが、発足から10年が経過する頃には、コンシューマーサービス(CS)職(注8)が主力となり、女性比率が高まった。このように個人部門の人材構成が他部門と大きく異なってきたこと、評価・異動等の面で、より現場の実情に沿った機動的な人事を行う必要性が高まったことなどを背景に、三井住友銀行は2011年4月、個人統括部の部内室として「リテール人事室」を新設し、個人部門従業員(部店長等を除く)の異動・評価、部店別基準人員等に関する機能を人事部から個人統括部に移管した。同時に、「人事運営に関するガイドライン」を制定し、全行的な人事運営の整合性を確保した。

2014年4月には、国内業務改革に伴うリテール部門へのエリア企業取引移管対応の一環として、個人統括部の部内部として「リテール人事部」を設置して機能を強化した。リテール人事部は、リテール部門および事務統括部が所管する支店サービス拠点の従業員の人事に関する機能を所管し、戦略的、機動的な人事運営を強化した(注9)

人事運営のみならず、業務戦略に応じて人事制度も柔軟に見直した。三井住友銀行は2013年1月、CS職を廃止し、新設した「総合職(リテールコース)」に原則移行することとした(注10)。CS職は、三井住友銀行発足と同時に「将来の個人業務の中核を担う職種」として創設され、個人ビジネスの発展とともに陣容を拡大、管理職登用の促進や処遇改善等を経て、個人業務の基幹職種として成長・定着してきた。その一方で、職務範囲が限定的なため、三井住友銀行全体として弾力的な人員配置ができない、個人のお客さまに対する営業中心の単線的なキャリアパスしかなく、将来的なキャリアパスが限定的、といった課題を抱えていた。

そこで、名称を「総合職(リテールコース)」として、個人ビジネスを支える基幹職種としての位置づけを一層明確にするとともに、担当職務を中小企業等法人取引におけるお客さまとの折衝・営業活動にも広げ、法人営業部への異動もキャリアの選択肢に含めることとした。また、従来通り勤務地を限定する「地域型」だけでなく、国内の隔地間転勤があり得る「全域型」も創設して、両者の選択制とすることで、弾力的な人員配置を可能とした。職務範囲や業務内容の変更を踏まえ、異動や係替えに際して業務上必要となる研修の充実や、各拠点におけるOJT(On-the-Job-Training)体制の整備も同時に進めることとした。

これに伴い、CS職の職種内コースであったCS職(MCコース)をBC職(MCコース)とし、BC職として役職者や課長へのキャリアアップを展望できるようにするとともに、BC職(MCコース)以外のBC職の職種内コースを廃止した。CS職(MCコース)は、国内の支店等において主として資産形成層の運用・調達に関するアドバイスを行うマネーライフコンサルタント(MC)業務に従事し、ファイナンシャルコンサルタント(FC)業務等に従事するCS職へのキャリアアップが想定されていたが、顧客訪問等も行うCS職への転換には心理的なハードルも高く、ベテランや優秀者を中心にキャリア上の閉塞感を感じる者が出てきていた、という事情があった。

三井住友銀行は2015年7月にも、BC職のキャリアアップ支援を目的に人事制度を改定した。既存の制度においても、BC職が管理職(課長)を目指すことは可能であったが、管理職に登用されると一気に職責が重くなるため、BC職がキャリアアップを目指しにくい「意識面の壁」があった。そこで、成長に合わせたキャリアアップを支援するとともに、従業員の努力に報いる給与体系を実現することを目的に、BC職に上位の職務等級を新設したうえで、支店や支店サービス拠点における「副課長」、MCの指導役としての「MCリーダー」、お客さまサービス課や支店サービス拠点、エリアにおける「上席主任」というポストに就くことで、必要な経験を段階的に積み、責任と権限を徐々に広げながら将来的に上位階層を目指していく制度とした。また、BC職(MCコース)の名称をコンサルティングコース(Cコース)と改称し、店頭業務に限定せず、必要に応じて顧客訪問を柔軟に実施できるようにした。