(4)アジア・セントリック実現に向けた戦略の推進

2014年4月にスタートした中期経営計画では、アジア戦略を最重要戦略と位置づけ、「アジア・セントリック」をスローガンに、アジアをマザーマーケットとする銀行として、アジアビジネスのさらなる強化を目指した。オーガニック、インオーガニック両面から事業を拡大し、地域のポートフォリオ構造を改革する方針であった。これを受け、三井住友銀行は2014年4月、アジア戦略の具体化と推進を目的に、国際統括部に「アジア戦略企画室」を新設し、同時に立ち上げた「アジア戦略クロスファンクショナルチーム(以下、アジア戦略CFT)」の事務局とした(注14)

中期経営計画では、アジア・セントリック実現に向けた戦略の柱として、①既存の日系・非日系大企業取引のさらなる強化、②中堅企業取引への参入、③トランザクションバンキングのコア業務化、④マルチフランチャイズ戦略の加速、⑤経営インフラ等の事業プラットフォームの構築、の5項目を挙げ、アジア戦略CFTが各項目につき、サブチームを組成して具体的な施策を検討した。

既存の大企業ビジネスについては、お客さまとのリレーションシップを強化し、貸出偏重から、お客さまニーズに合致するプロダクツや経営・財務課題へのソリューション提供を通じて取引を複合化するビジネスモデルへの転換を図った。アジア地域の非日系企業に対するソリューション提案機能を強化するため、2015年4月にアジア投資銀行営業部ファイナンシャル・ソリューション室および各拠点が手掛けていたソリューション提案機能等を集約し、「アジアソリューション部」を設置した。同部は、高度なファイナンス・アレンジや日本とアジアをつなぐ業務斡旋など、多様なソリューションを提供することとした。

非日系中堅企業については、シンガポールやマレーシアなどにおいて営業チームを強化し、お客さまの拡充に努めた。貸出に付随して、預金、キャッシュマネジメント、外国為替といった商品・サービスの提供も包括的に行い(トランザクションバンキング)、取引複合化につなげるための施策の一環として、2015年4月には、「アジア・大洋州トランザクションバンキング営業部」を設置し、マーケティング機能を強化した。一方、東アジア地域においては、2016年4月、国際部門とホールセール部門にまたがる「東アジア本部(注15)」を設置し、地域一体的な業務運営・経営管理態勢を構築した。また、東アジア地域における地域一体的な経営管理・業務運営態勢の構築、企画・管理機能の強化、および日系・非日系業務推進の一本運営を狙いに、「東アジア統括部」を東京に設置した。

こうした業容拡大と同時に、アジア・大洋州地域のリスク管理機能の強化も進めた。アジア審査部のアジア・大洋州地域企業の審査機能を分離し、「アジア・大洋州審査部」を設置。同部をシンガポールに設置することで、現地に密着した迅速な審査・決裁態勢を構築した。また、東アジア地域企業および在日非日系企業の審査を所管する部署として、国際与信管理部内に「東アジア審査室」を設置した(注16)。また、シンガポール拠点のミドル・バックオフィス事務、および域内他拠点の事務支援・指導を所管する営業店「アジア・大洋州業務管理部」を設置した。

一方、マルチフランチャイズ戦略については、追加対象国としてインドなどを想定し、検討を進めたが、2015年半ばから2016年初にかけ、中国経済の減速傾向が顕著となるなど、アジアをはじめとする新興国や資源国経済の変調により、市場の不確実性が高まった。その結果、新興国の株価が大きく下落し、当社は2015年度決算においてBTPNののれんについて減損を計上した。しかし、当社はアジア戦略を10年の計で進めており、中期的な取組方針は大きくは変わらなかった。