この10年の振り返り

2011年度以降のSMBCグループの「第2の10年」を一言で振り返れば、「不確実・不透明な外部環境の下、グループ・グローバル経営が拡大・深化した10年」であった。超低金利環境が長期化し、国内における伝統的な預貸業務が成熟化するなか、三井住友銀行は内外の主要事業においてお客さまの視点に立ったビジネスモデル改革を進めた。また、国際金融規制の強化を背景に、SMBCグループは「資本効率・資産効率・経費効率」の3つの経営効率の向上を図りつつ、業務(グループビジネス)と地域(グローバルビジネス)のウィングを大きく広げてトップラインの伸長に努めた。同時に、グループ・グローバル経営を支える経営基盤の整備に注力した。さらに、地球環境や社会の持続可能性に対する危機感が世界的に高まるなかで、サステナビリティ経営の強化に取り組んだ。

三井住友銀行における国内ビジネスモデル改革

当初は、世界金融危機の後遺症や歴史的な円高水準、東日本大震災の影響などもあり非常に厳しい外部環境の下でのスタートとなった。2012年度下期以降、内外経済は回復傾向に転じたものの、超低金利環境の下での預貸金利ざやの縮小が収益の下押し圧力として作用し続けた。こうしたなかで、三井住友銀行はお客さま起点に立ったビジネスモデル改革を進め、2014年4月にはお客さまのマーケットセグメンテーションを見直すことで顧客対応力の強化を図る「国内業務改革」(注1)に踏み切った。個人、法人、企業金融の国内3部門をリテール部門、ホールセール部門の2部門に再編するなど、業務部門をまたぐ大規模な組織再編は、三井住友銀行発足以降初めてのことであった。

その後も、ホールセール部門においては、成長企業・成長産業への取り組みを強化するとともに、銀証連携や内外連携を通じてソリューション提供力の強化に努めた。リテール部門でも、SMBC日興証券との新たな銀証連携モデルに踏み出すとともに、「貯蓄から資産形成へ」のトレンドが進展するなかで、お客さま本位の「真のコンサルティングビジネス」の推進に注力した(注2)。また、リモートチャネルの利用が浸透するなか、2017年度以降の3年間で国内全リテール店舗を次世代型店舗に変革したほか(注3)、事務の効率化・簡素化を進めた。

グループビジネスの強化

その一方で、三井住友フィナンシャルグループ(当社)はインオーガニック戦略を通じてグループビジネスのウィングを大きく広げるとともに、グループ会社の再編やグループ連携を通じて業務基盤の強化に注力した。具体的には、2009年10月に日興コーディアル証券(2011年4月に「SMBC日興証券株式会社」と改称)がグループ入りすると、ホールセール業務や海外拠点の立ち上げを急ぐとともに、ホールセール・リテール両面で銀証連携を強化した(注4)。2018年1月には、SMBC日興証券とSMBCフレンド証券が合併し、業務基盤の一層の強化を図った。2020年4月には、大口富裕層向けサービスブランド「SMBC Private Wealth」を立ち上げ、SMBC日興証券主導の下、銀行・信託が協働する体制とした。

また、当社は2012年4月、プロミスを完全子会社とし、2012年7月に「SMBCコンシューマーファイナンス株式会社」と改称したほか(注5)、三井住友銀行は2013年10月、ソシエテジェネラル信託銀行を買収して「株式会社SMBC信託銀行」と改称した。2015年11月にはSMBC信託銀行がシティバンク銀行のリテールバンク事業を新ブランド「PRESTIA<プレスティア>」として統合し、外貨、信託、不動産という3つの機能を有する信託銀行が誕生した(注6)

さらに、キャッシュレス社会が本格的に到来するなか、当社は2019年4月、三井住友カードを100%子会社とし、セディナ(2020年7月以降SMBCファイナンスサービス)を三井住友カードの子会社として、グループ一体でキャッシュレス決済戦略を推進することとした。その中で三井住友カードは2019年に多様な決済サービスをワンストップで提供する次世代決済プラットフォーム「stera(ステラ)」を構築した(注7)。2016年10月に当社の連結子会社となった三井住友アセットマネジメントは2019年4月、大和住銀投信投資顧問と合併し、「三井住友DSアセットマネジメント株式会社株式会社」が発足した(注8)

当社がグループビジネスの最適化および資本・資産効率の向上を進めるなかで、関西アーバン銀行とみなと銀行、三井住友ファイナンス&リースについては、非連結化を通じてリスクアセットを削減した。その結果、これら3社は当社連結ベースで適用されるバーゼルⅢの制約から解放されるとともに、三井住友ファイナンス&リースは、これまで規制上従事できなかった不動産事業や再生可能エネルギー事業に参入することが可能となった(注9)

グローバルビジネスの拡大

世界金融危機後、欧米金融機関がデレバレッジを進めるなか、当社は財務基盤の相対的な優位性を活かしてグローバルビジネスの拡大に努めた。具体的には、SMBC日興証券の株式・債券引受業務やM&Aアドバイザリー業務を継続的に強化しつつ、内外・銀証連携の強化を通じて海外非日系企業取引の複合化に取り組んだ。また、プロジェクトファイナンスなど、SMBCグループが強みを持つビジネスのさらなる拡充に取り組み、2012年6月に英国Royal Bank of Scotland Groupから航空機リース事業を買収したほか、2015年9月には米国ゼネラル・エレクトリック(GE)グループより欧州のLBO(注10)貸出資産を買収した(注11)。2017年度以降は自己資本規制や外貨調達の制約が強まるなかで、資本効率・資産効率・経費効率の3つの経営効率にこだわった業務運営を行うとともに、顧客預金の増強、外貨建債券やカバードボンドの発行等を通じて、安定的かつコストを意識した質の高い外貨調達を推進した(注12)

アジアにおいては、2013年5月、三井住友銀行がインドネシアの中堅銀行Bank Tabungan Pensiunan Nasional(BTPN)に出資し、アジア新興国においてフルバンキングに参入し、中長期的に第2、第3のSMBCグループを育成するという「マルチフランチャイズ戦略」は大きな一歩を踏み出した(注13)。2015年半ば以降の新興国経済の急減速を受けて、マルチフランチャイズ戦略は一時スローダウンを余儀なくされたものの、2019年2月、BTPNとインドネシア三井住友銀行が合併し、「PT Bank BTPN Tbk」が誕生したほか、2021年4月以降、ベトナム、フィリピン、インドにおけるノンバンクや商業銀行への出資を相次いで公表した。

さらに、当社は2020年2月に英国資産運用会社TT Internationalを買収するなど、アセットマネジメントビジネスの本格的な海外展開に向けて経営資源を投入した。

以上のような取り組みを通じ、グローバルビジネスはSMBCグループの成長ドライバーとして機能し、当社の連結業務純益に占めるグローバル事業部門の比率は2020年度で33.8%と、2010年度の12.9%から大幅に上昇した。

デジタル革命への対応

2010年代には、デジタル革命が急速に進展するなかで、ITを金融分野に活用する「フィンテック」企業が台頭した。当社は、デジタル革命を新たなビジネスの創出や利便性・生産性の向上に取り組む絶好の機会と捉え、オープンイノベーションを通じてデジタルを活用した新規事業の創出や金融業務のデジタライゼーションの推進に取り組んだ。こうしたなかで、生体認証サービス(ポラリファイ)や電子契約サービス(SMBCクラウドサイン)など、伝統的な金融サービスにとどまらないソリューションを提供するプラットフォームを構築するとともに(注14)、2020年12月には中堅・中小企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援する法人向けデジタルプラットフォーム「PlariTown(プラリタウン)」の提供を本格的に開始した(注15)

経営基盤の強化

SMBCグループのビジネスが多様化し、かつグローバルに広がるなか、当社はグローバル金融グループとして持続的な成長を実現すべく、コーポレートガバナンスの一層の強化・充実に努めたほか、グループ・グローバルベースの内部管理態勢や人材戦略・人材育成の強化、各種システム基盤の整備(注16)をはじめとする経営基盤の強化に取り組んだ。

コーポレートガバナンスに関しては、当社は2015年5月、「SMFGコーポレートガバナンス・ガイドライン」を策定し、コーポレートガバナンスの強化・充実を経営上の最優先課題の一つと位置づけたうえで、2015年6月、社外役員を大幅に増員した。2017年6月には、監査役会設置会社から指名委員会等設置会社に移行した。また、2017年4月には、事業部門制・CxO制を導入してグループ経営を強化した。その後も、「3つの防衛線」をグローバルに強化するなど、「グローバルなシステム上重要な銀行(G-SIBs:Global Systemically Important Banks)」に相応しいコンプライアンスやリスク管理、内部監査態勢の整備に努めた(注17)

また、当社はグループ・グローバル経営を支える人材戦略・人材育成を強化するとともに、経営トップの強いコミットメントの下、ダイバーシティの推進に注力した。グループ役職員の多様化を踏まえ、2014年4月にはSMBCグループの全役職員が共有すべき価値観、行動指針として5つのキーワードからなる「Five Values」を制定してその浸透を図った。さらに、従業員一人ひとりがより生き生きと働き、最大限に力を発揮できるよう、三井住友銀行は2020年1月、人事制度を改定した(注18)

コロナ危機への対応

2020年に入ると、新型コロナウイルス感染症が世界的に流行し、わが国経済・社会に甚大な影響をもたらした。SMBCグループは、お客さまや従業員の感染防止に細心の注意を払いつつ、お客さまの資金繰り支援、オペレーションの継続に最優先で取り組み、社会機能の維持に不可欠な金融インフラとしての使命遂行に努めた(注19)

当社連結ベースの業績推移

この10年間の当社連結当期純利益の推移をみると、2012年度下期以降、内外経済の好転を背景に順調に拡大し、2012、13年度と2期連続で過去最高益を更新した(図表1)。しかしながら、2015年度以降は、アジア新興国経済の減速やマイナス金利政策の長期化などを背景に、トップライン収益が伸び悩んだほか、投資が先行して営業経費が高止まったため、連結当期純利益は概ね横ばい圏内で推移した(注20)

2017年度以降、資本効率・資産効率・経費効率の向上を強力に推進するなか、2018年度に入ると、当社連結の普通株式等Tier1比率(バーゼルⅢ最終化時ベース・除くその他有価証券評価差額金)が2019年3月末にも目標としていた10%程度に到達するとの目途が付いた(注21)。これを受け、当社は2018、2019年度に合計1,700億円の自己株式を取得・消却するなど、株主還元を強化した。

新たな未来を切り拓く

2010年代半ば以降、地球環境・社会の持続可能性に対する懸念が世界的に高まるなかで、当社は従来のCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)活動から一歩進めて「サステナビリティ経営」を推進することとした(注22)。当社は2020年4月、「SMBCグループ サステナビリティ宣言」を公表し、それに基づく10年間の行動計画として「SMBC Group GREEN×GLOBE 2030」を策定した。さらに気候変動に対する危機意識が一段と高まるなか、2021年5月には、長期行動計画「気候変動対策ロードマップ」の第一段階として「アクションプランSTEP1」を公表した。

SMBCグループは2020年4月、中長期ビジョンとして「最高の信頼を通じて、お客さま・社会とともに発展するグローバルソリューションプロバイダー」の実現を掲げた。SMBCグループは、このビジョンの下、絶えざる自己変革と時代の一歩先を行く先進的な取り組みに果敢に挑戦することを通じて、新たな未来を自ら切り拓いていく方針である。

(図表1)当社連結ベースの業績推移
(図表1)当社連結ベースの業績推移