(3)銀証連携・内外連携の進展と課題
2017年度以降は、事業部門制の導入をきっかけにSMBCグループの連携が一段と強まるなか、中核インフラでもある銀証連携態勢の高度化が課題となった。具体的には、銀証の現場対応力強化であり、新たな銀証連携モデル構築に向けた体制整備が焦点となった。
そこで、三井住友銀行は2020年4月、コーポレート・アドバイザリー本部(注26)内の証券マーケティング・グループを部組織化して証券マーケティング部を設置した。証券マーケティング部は、ミドル・スモールキャップの上場企業(時価総額1,000億円未満)に対するSMBCグループ全体でのお客さま対応力強化と、効率的な運営体制の両立を目的とした。また、SMBC日興証券との兼職組織とすることで、銀証両方のナレッジを保有した人材の育成・活用を目指した。
2021年3月、銀証連携の進展を念頭に、SMBC日興証券はフロント体制の見直しを実施した。それまでは事業法人本部(注27)と投資銀行本部(注28)がそれぞれ業種担当(セクター別カバレッジ)を通じて顧客企業に対応するダブルカバレッジ体制を敷いていた。ダブルカバレッジ体制については、役割や責任の明確化と個々のカバレッジの競争力強化の観点から改善の余地が指摘されており、両本部の統合はSMBC日興証券誕生以来の懸案でもあった。そこで、この際、両本部を統合してコーポレート・ファイナンス本部に改組し、その下でのシングルカバレッジ体制としながら、プロダクトの機能強化等を通じてソリューション提供力の強化を図った。
三井住友銀行もSMBC日興証券のセクターカバレッジに合わせたセクターの見直しを行い、銀証間で横串の通ったセクター別カバレッジ体制の構築を目指すこととした。また、フロントへのサポート機能を拡充した。具体的には、SMBC日興証券産業調査部の拡充と共にIBサポート部を新設、さらに三井住友銀行企業調査部と連携。その先には、人材育成の強化につなげることで、お客さまに真に価値あるアドバイス、ソリューションを提供していくことを見据えている。

内外連携では、三井住友銀行とモーリス(注29)との提携では一定の成果があったものの、それを補完するSMBC日興証券のクロスボーダーM&A案件の態勢強化は発展途上であった。2017年度以降は、三井住友銀行で欧米海外拠点との連携によるファンドEXITを中心とした海外企業の売り案件の持ち込みを強化した。狙いは案件の具体化とニーズの把握・発掘により派生する別案件の捕捉である。また、銀証連携を軸に企業による大型カーブアウト(非中核事業の切り離し)への関与を企図し、事業会社に対する事業戦略提案を強化した。並行して、買い手として存在感を強める大型のバイアウトを行う一部のPEファンド(注30)に対するターゲット企業の選定・交渉を強化した。SMBC日興証券との連携によるFA(注31)就任、買収ファイナンス、将来的なファンドEXITへの関与等、銀証プロダクトの複合的な取引を捕捉するのがもう一つの狙いでもあった。
クロスボーダーM&A案件の獲得には、銀証のグローバルなプラットフォーム構築が喫緊の課題であるとの共通認識が固まりつつあるなか、さらに危機意識の高まりにつながる金融イベントが起こった。2018年、三井住友銀行の親密取引先が買い手となる大型買収案件で、SMBCグループはFAに就任することができず、SMBCグループ経営陣に衝撃が走った。
内外および銀証の双方の連携不足という課題認識から、三井住友銀行は2019年4月、国際統括部にグローバルIBコーディネーターを内外・銀証連携のハブとして設置し、大型案件のオリジネーション強化を目指すこととした。グローバルIBコーディネーターのミッションは、各地の地域コーディネーターと連携し、内外・銀証間の連携をファシリテートし、オリジネーション活動からディール対応まで、様々なステージにおいて横串を刺すことにより、SMBCグループ各社が持つ機能を最大化することとした。2019年12月には、増加するクロスボーダーM&A案件(含むファイナンス案件)への対応力強化を図るため、国際統括部内に「グローバルIBコーディネーション室」を新設して組織化した。
2020年8月には大手総合流通グループの米国子会社による同業買収案件が成立した。競合他社に比べた資金調達計画等が評価され、SMBC日興証券は本社ホールディングスのFAを獲得した。グローバルIBコーディネーション室新設に象徴されるグローバルなプラットフォーム構築の効果が表れた事例であった。コロナ禍で日本企業による大型再編が相次いでいることは、SMBCグループを含め日本の金融機関のグローバルな存在感の高まりにもつながっている。
そうしたなか、SMBCグループの日本関連クロスボーダーM&Aビジネスをさらに強化し、お客さまのニーズをより強力にサポートするイベントがあった。2021年7月に当社、三井住友銀行、およびSMBC日興証券は、Jefferies Group LLCおよびその親会社であるJefferies Financial Group Inc.(以下、総称してJefferies(注32))との間で、コーポレート&インベストメントバンキング分野での協業を見据え、戦略的資本・業務提携契約を締結した。Jefferiesとの提携は、喫緊の課題である銀証のグローバルなプラットフォーム構築に大きく寄与すると期待される。
三メガバンクの三井住友銀行、旧四大証券の一角を占めたSMBC日興証券を擁するSMBCグループにとって銀証連携・内外連携は最大の強みである。リーグテーブルをみると、株式ブックランナーではSMBC日興証券が2019年度にグループ入り後初めてトップを獲得したほか、2020年度には株式ブックランナーおよび円債主幹事でそれぞれ2位、3位、M&A件数では4年連続で1位となるなど、大きな実績を残した(図表6-5)。SMBCグループの銀証連携・内外連携は、次の10年間でのさらなる飛躍、高度化が期待できる時間帯に入ったといえる。

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第1章不確実性が増す外部環境
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第2章新たなガバナンスの下でのグループ・グローバル経営の強化
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第3章「カラを、破ろう。」
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第4章「お客さま本位の業務運営」の徹底
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第5章リテール金融ビジネスにおけるビジネスモデルの変革
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第6章ホールセールビジネスにおける真のソリューションプロバイダーを目指して
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第7章グローバル・プレーヤーとしての進化
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第8章高まる不透明感の下での市場ビジネスの進化
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第9章アセットマネジメントビジネスの強化
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第10章デジタル戦略の本格展開
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第11章G-SIBsとしての内部管理態勢の確立
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第12章業務インフラの高度化
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第13章グループ経営を支える人事戦略
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第14章持続可能な社会の実現に向けた取り組み
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第15章「コロナ危機」への対応
- おわりに