第3章
「カラを、破ろう。」

1.新体制の発足

2018年12月14日、三井住友フィナンシャルグループ(当社)は2019年4月1日付で経営首脳が交代する役員人事を内定したことを公表した。具体的には、取締役会長の宮田孝一が退任し、三井住友銀行取締役会長に専任するとともに、社長グループCEOの國部毅が取締役会長に、執行役副社長グループCFO兼グループCSO(三井住友銀行取締役副頭取執行役員を兼務)の太田純が社長グループCEOに、それぞれ就任することとなった。経営トップの選定にあたっては、公平性と透明性の高いプロセスを確保するため、取締役会の内部委員会である指名委員会が、1年以上をかけてSMBCグループを取り巻くビジネス環境や業務戦略、経営トップに求められる資質等について審議を重ねた。

太田は1958年(昭和33年)生まれ、京都府出身。1982年に住友銀行に入行し、2006年ストラクチャードファイナンス営業部長、2009年三井住友銀行執行役員に就任。同年、三井住友銀行投資銀行統括部長、当社インベストメント・バンキング統括部長に就任した後、2012年三井住友銀行常務執行役員、2014年同専務執行役員、2014年当社取締役、2017年当社取締役兼副社長執行役員、2018年三井住友銀行取締役兼副頭取執行役員に累進。この間、新興国ビジネスやイノベーション、企画・財務等を担当した。プロジェクトファイナンスをはじめとする国際業務や投資銀行業務のキャリアが長い。

國部は記者会見において、このタイミングでの経営トップ交代となった理由として、①2017年4月の事業部門制・CxO制の導入とともにスタートした中期経営計画(2017~2019年度)が順調に進捗し、新たな経営体制への移行に一定の目途がついたこと、②中期経営計画の最終年度の2019年度を迎えるにあたり、新しい経営陣の下で次期中期経営計画の検討、議論を開始する必要があったことを指摘した。

太田は社長就任に際し、役職員向けのビデオメッセージにおいて、「厳しい競争を勝ち抜いていくためには、時代の一歩先を読み、プロアクティブに対応していくこと、そして、グループの総合力を発揮していくことが不可欠」と述べた。そのうえで、役職員に対し、「カラを破る」ことを心掛けて欲しい、と呼びかけた。

一口に「カラ」といっても、様々なものがあります。自分自身の「限界」もそうですし、これまでの「習慣」や「常識」、「固定観念」もそうです。また、「組織と組織の間にある壁」や「規制」などもカラの一種でしょう。(中略)皆さんの周りにあるカラや壁を破ることは、勇気がいることかもしれません。しかし、勇気を出して一歩前に踏み出すことで、組織はいきいきとしたものになり、未来に繋がる新しいアイデアが生まれるものだと思います。私は、そうした勇気を持つ役職員を全力で応援します。皆さん、ぜひ日々の業務の中で意識していってほしいと思います。

(写真)中央:太田三井住友フィナンシャルグループ社長グループCEO、上段:カラを破ろう。 
太田社長就任ポスター(従業員向け)

2019年4月、太田は社長就任後、初めてのSMBCグループ年度方針打合会兼三井住友銀行部店長会議に臨み、「グループCEOとしての最大の使命は、これまで諸先輩方が営々と築いてこられた事業基盤や強みをしっかりと引き継ぎながら、SMBCグループをさらに成長・発展させていくこと」と述べ、経営の基本方針やグループとして目指すべき方向性を変えることなく、「最高の信頼を通じて、日本・アジアをリードし、お客さまと共に成長するグローバル金融グループ」というビジョンの実現に向けて、引き続きグループ一丸となって取り組んでいく旨を述べた。

そのうえで、太田は、新たな打ち手として、デジタライゼーションの進展を踏まえた新規ビジネスの創出を推し進めていくこと、成長戦略の質や実効性を高めていくためにも、グループ経営の高度化、とりわけ、グループ経営人材の育成やグループ人事・人材戦略を通じたコストコントロールに注力していく考えを明らかにした。

新規ビジネスの創出を促すため、太田は、「社長製造業」と銘打ち、グループの新たな成長の柱となるような面白いアイデアがあれば、即時予算と人員を割り当て、担当者をその社内ベンチャーの社長に積極的に抜擢するなどして、金融というカラを破ってチャレンジする従業員を支援する姿勢を打ち出した。

また、2019年7月に公表された当社の統合報告書「SMBC Group Report 2019」では、グループのさらなる成長に向けた意気込みや変革への決意として次のように述べた。

昨今、『銀行不要論』を耳にすることがありますが、私は「銀行が不要になるのであれば、我々自身が銀行でなくなればいい」と考えています。デジタル化の進展等によって金融機能の在り方が変化し、お客さまにとってより安価で利便性の高い商品やサービスが次々と生まれ、それが経済・社会の発展に繋がっていくのなら、そしてその担い手が「銀行」と呼ばれる企業以外の人たちによってもたらされるのなら、我々は「銀行」であり続ける必要はありません。我々自身が弛まぬ自己改革により、その担い手になっていく覚悟です。

そのうえで、次のように述べて統合報告書におけるCEOメッセージを締めくくった。

これまで我々は、不良債権問題やグローバル金融危機等、様々な難局に対峙しましたが、そのたびに自ら進化を続けてきました。今、我々が直面する構造変化は、それらに匹敵する、あるいは上回るインパクトをもたらしかねないものですが、変化に向き合い、自らを創り変えることによって、我々の競争優位性を飛躍させ得る千載一遇の好機でもあります。

私は、これまで申し上げてきたSMBCグループの強みを活かし、長期的なビジョンの下で戦略を着実に遂行しつつ、時代の一歩先を読んだ先進的な取り組みに果敢にチャレンジしていけば、新しい時代を切り拓き、金融の未来を創ることができると確信しています。我々は弛まぬ自己改革により、金融グループとして更なる高みを目指していきます。