(2)成長企業・成長産業の支援
三井住友銀行では、成長企業を支援する専門部署を本部内に設置し、SMBCベンチャーキャピタル(注4)や外部のベンチャーキャピタル、SMBC日興証券等と連携し、成長企業向けの投融資、株式公開支援、大企業とのアライアンス支援などお客さまの成長ステージに合わせたソリューションを提供した。たとえば、2010年7月には、日興コーディアル証券(当時)との共同運営により、会員制無料情報提供サービス「IPOナビゲーター」を創設した。これはIPO(株式公開)を志向する企業に対しIPOに必要な情報をワンストップで提供するプラットフォームで、メールマガジンの配信やWebサイトの運営に加えて、IPOセミナーを開催した(注5)。また、2012年10月より「成長性評価融資制度」を導入し、三井住友銀行法人マーケティング部が認定した将来有望な成長企業に対する貸金案件について、当該企業の成長性に関する各種稟議参考資料を同部が作成し営業店の与信稟議をサポートする体制とした。
成長企業の支援に加えて、三井住友銀行は2010年7月、特に成長が見込まれる特定の「産業クラスター」(注6)に対し、中長期的な取り組みを強化することを目的に、ストラクチャードファイナンス営業部のメンバーを中核とした部門横断的組織「成長産業クラスタープロジェクトチーム」を新設した。プロジェクトチームは、個別のお客さまと個別の銀行という従来の発想を超えて、対象分野に関連する産業や企業をサプライチェーンの考えから面的に捉えたうえで、お客さまや関係省庁、行内関連部署等と連携し、成長産業クラスターに対する三井住友銀行のさらなる専門性の向上と情報発信力の強化を図ることにより、様々な局面でのビジネス機会の捕捉・創出に努めた。
2012年4月には、成長産業クラスタープロジェクトチームを発展的に解消し、プロジェクトファイナンス営業部の部内室として「成長産業クラスター室」を設置した。さらに2014年4月には成長産業クラスター室の人員を強化し、投資銀行部門とコーポレート・アドバイザリー本部にまたがる独立部として「成長産業クラスター」(注7)を設置した。当初、「環境」「新エネルギー」「水」「資源」を当面の取扱いテーマとしていたが、これに「インフラ」「農業」「ヘルスケア」「ロボット」を加え、産官学の連携で集積した幅広い知見、ネットワークを活かし、新たなビジネスの創出に取り組んだ。
たとえば、農業においては、三井住友銀行は2016年8月、大潟村あきたこまち生産者協会、NECキャピタルソリューション、秋田銀行、三井住友ファイナンス&リースと共同して、農地所有適格法人「株式会社みらい共創ファーム秋田」を設立した(出資比率:三井住友銀行5.0%、三井住友ファイナンス&リース9.9%)。みらい共創ファーム秋田は、秋田県大潟村において最先端の農機やIT技術を活用してブランド米「あきたこまち」やタマネギの生産を手掛け、大規模営農化に伴うコスト削減や海外を含む新たな販路開拓等を通じて、効率的で収益性の高い農業経営モデルの構築を目指している。三井住友銀行からは行員1人が出向し、メガバンクが農業に参入したことでメディアにも取り上げられた。

そのほか、成長産業クラスターは、新興国の多面的な産業クラスター群の育成に早期から食い込み、成長マーケットを捕捉すべくミャンマー、モンゴル、バングラデシュでの活動にも取り組んだ。
成長産業クラスターと共に成長産業への取り組み強化として挙げられるのが2014年4月の「日本成長戦略クロス・ファンクショナル・チーム(CFT)」の立ち上げである。日本成長戦略CFTは、2014年度からの中期経営計画で10年後を展望したビジョンの設定で立ち上げられた5つのCFTの一つでもあった。
日本成長戦略CFT設置の狙いは、バブル崩壊以降の厳しい環境を乗り越え、日本経済と共に歩んできたメガバンクとして、政府が掲げる日本再興戦略(注8)にプロアクティブに取り組み、日本経済の成長に貢献するとともに、「成長分野に強いSMBCグループ」ブランドの確立を図ることであった。
そのためにも、官を含む外部ネットワークと各クラスターの専門性に強みを有する「成長産業クラスター」のエッジを活用しながら、主要テーマについて分科会を立ち上げて行内・グループ内の成長分野に関する情報や知見を集約し、企画立案にとどまらず、「案件化」から「実行」までを一貫して対応することとした。

日本成長戦略CFTは成長分野の支援において成果を挙げ、対外的にも成長分野におけるSMBCグループのブランド力の構築に貢献した。たとえば、日本初の水素自動車「MIRAI」を販売開始したトヨタ自動車に対し、三井住友銀行が水素燃料関連プレーヤーのオーガナイザーとなり、三井住友ファイナンス&リースが商業用移動式水素ステーション向けのリースに取り組んだほか、スパークス・グループが2015年11月に組成した「未来創生ファンド」にトヨタ自動車とともに出資した。同ファンドは、「知能化技術」「ロボティクス」「水素社会実現に資する技術」を中核技術と位置づけ、それらの分野の革新技術を有する企業、またはプロジェクトを対象に投資を行った。さらに2015年5月に名古屋で「SMBC水素社会フォーラム」を開催した(注9)。
三井住友銀行は2017年4月、ホールセール部門内の成長企業支援機能を集約して「成長事業開発部」を設置した。成長事業開発部は、業務部門投資先ベンチャーファンドやSMBCベンチャーキャピタルとのリレーションを通じたソーシング、IPO志向先をはじめとした成長企業へのエクイティ支援・融資、大企業とのマッチング等の個社支援機能の充実を通じて、「成長企業といえばSMBC」というブランドの構築に努めた。同時に日本成長戦略CFTを発展的に解消し、「成長戦略推進プロジェクトチーム」(注10)を設置した。本プロジェクトチームは、成長事業開発部を中心に、ホールセール部門・投資銀行部門、グループ各社の成長分野に関する情報を集約し、画期的なソリューション提供を通じて顧客基盤の拡充に取り組んだ。2020年4月には、成長事業開発部が有望なベンチャー企業を特定し、同部が主体的に銀行取引と成長支援を推進する体制を導入した。
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第1章不確実性が増す外部環境
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第2章新たなガバナンスの下でのグループ・グローバル経営の強化
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第3章「カラを、破ろう。」
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第4章「お客さま本位の業務運営」の徹底
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第5章リテール金融ビジネスにおけるビジネスモデルの変革
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第6章ホールセールビジネスにおける真のソリューションプロバイダーを目指して
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第7章グローバル・プレーヤーとしての進化
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第8章高まる不透明感の下での市場ビジネスの進化
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第9章アセットマネジメントビジネスの強化
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第10章デジタル戦略の本格展開
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第11章G-SIBsとしての内部管理態勢の確立
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第12章業務インフラの高度化
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第13章グループ経営を支える人事戦略
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第14章持続可能な社会の実現に向けた取り組み
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第15章「コロナ危機」への対応
- おわりに