(2)攻めと守りのIT

SMBCグループは、2020年度からの中期経営計画において、IT投資額を前の中期経営計画から600億円増額し5,000億円とした。このうち1,000億円を、グループCEOが「将来の成長が期待できる分野」と判断したものに機動的に投入できるCEO枠として確保し、中長期経営基盤強化やデジタル案件等の戦略投資を大きく増やしていくとした(注14)

一方で、相次ぐ法令・制度の制改定やインフラ整備、レガシーインフラの刷新、セキュリティ強化など「守りのIT」への対応も重要である。SMBCグループでは、効率的な運営により既存IT領域への「守りのIT」投資を適切にコントロールし、その分、収益増強や競争優位確保などにつながる「攻めのIT」投資を拡大させてきた。SMBCグループ各社におけるこの10年間の主要なシステム投資は図表12-5の通りである。

図表12-5 2011年度から2020年度に、各事業部門、グループ各社が実施した主なシステム投資の一覧表
(図表12-5)各社の主要なシステム投資

このほかに、情報システム部門自体が主導的に関わってきた戦略投資案件として、次世代ワークプレイスの構築とAIなど新たな技術の活用がある。

次世代ワークプレイスとは、マイクロソフトのパブリッククラウドサービスであるMicrosoft365を活用した新しいOA環境で、「いつでも、どこでも」という従業員のニーズに応じた柔軟な働き方を実現し、生産性の向上にも資する仕組みである。次世代ワークプレイスは、三井住友銀行において2017年7月から順次全店展開し、それと並行して、リモート端末についても部内共用PCから個人専用の新型リモートアクセス端末へと切り替えていった。

2020年、期せずして発生した新型コロナウイルス感染症の流行により、リモートアクセス端末を活用した在宅勤務や、Microsoft Teamsによるリモート会議が浸透し、働き方改革が一気に進展した。次世代ワークプレイスは、2018年10月のアジア・大洋州および東アジアの拠点での導入を皮切りに、順次、海外拠点やSMBCグループ各社へと拡大させている。

AIなど新たな技術の活用については、抜本的かつ革新的な業務の効率化を目的に、2010年代半ばから幅広く活用を始めた。一例を挙げるならば、IBMワトソンの活用や「SMBCチャットボット」の開発・導入などがある。

IBMワトソンは、IBMが開発した、自然言語解析と学習機能を備えた質問応答システムで、日本総合研究所では、日本アイ・ビー・エム等(注15)との共同開発により、三井住友銀行のコールセンターにおける照会対応業務などにIBMワトソンを活用した。具体的には、口頭による質問を音声認識システムでテキスト化したうえで、内容を分析・解釈し、業務マニュアルやQ&A集から回答候補をオペレーターに提示する仕組みで、これにより迅速かつ正確な回答ができるようになった。同システムは、2014年11月に三井住友銀行のコールセンター対応業務で活用を開始し、2016年10月にはコールセンター全席に導入。その後、三井住友銀行の国内与信業務や個人向けサービスに関わる行内照会対応、海外拠点からの与信業務に関する英語での照会対応など、対象範囲を拡大した。

「SMBCチャットボット」は、三井住友銀行と日本マイクロソフトが共同開発した対話型AI自動応答システムで、利用者からの照会に対してAIが自然な対話形式で回答を返すことで、照会対応の効率化を実現するものとなっている。同システムは、2017年8月に三井住友銀行の行内システム環境に関する照会窓口として導入し、その後、「SMBCダイレクト」内のお客さま照会対応にも広げていった。またSMBCコンシューマーファイナンスでは、2018年3月から自動Q&AチャットサービスとしてSMBCチャットボットを活用し、お客さまからの質問に対して24時間365日で自動回答している。SMBCチャットボットは、当社持分法適用会社であるJSOLなどITベンダーに対してライセンス提供しており、千葉興業銀行などでも利用されている。

(画像)SMBCコンシューマーファイナンスのホームページで活用しているチャットサービスの画面
SMBCコンシューマーファイナンスのチャットサービスの画面

こうしたSMBCグループの積極的なITへの取り組みは外部からも高く評価されており、2015年および2019年の「攻めのIT経営銘柄」、2020年の「DX注目企業」(ともに経済産業省・東京証券取引所主催)に当社が選定されたほか、公益社団法人企業情報化協会主催の「IT賞」各賞をSMBCグループ各社が受賞している。