(2)マネロン・テロ資金供与対策の高度化

地政学的リスクや国際社会におけるテロの脅威の高まり、さらにはマネー・ローンダリングおよびテロ資金供与(以下、マネロン・テロ資金供与)の手口の巧妙化等を背景に、各国のマネロン・テロ資金供与対策に対する国際的な目線は急速に厳しさを増すこととなった。金融活動作業部会(FATF:Financial Action Task Force)(注8)も2014年より順次開始した第4次相互審査において、各国の法令整備状況のみならず、当局および金融機関等の取り組みの有効性についても審査対象とした。こうしたなかで、2017年には、FATF第4次対日相互審査が2019年に実施されることが明らかとなった。FATF第4次対日相互審査の結果が著しく低い場合、「マネロン・テロ資金供与リスクの高い国」と認定され、日本の国としての信認の失墜はもちろん、わが国金融機関の国際金融取引に支障が出る恐れもあった。

日本政府は2017年7月、テロ等準備罪を新設する改正組織的犯罪処罰法(注9)を施行して、翌8月、パレルモ条約(国際組織犯罪防止条約)を締結(注10)したほか、2018年2月に金融庁が実効的なマネロン・テロ資金供与対策の基本的な考え方を明らかにした「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」(以下、ガイドライン)を公表した。

ガイドラインは、①リスクベース・アプローチ(注11)を日本の金融機関等が実施すべきミニマム・スタンダードと位置づけたうえで、②経営陣による主体的・積極的な関与と、③組織横断的なマネロン・テロ資金供与対策を求めており、金融庁は、金融機関等に対してガイドラインの記載と現状との差異の分析結果、および当該差異を解消するための行動計画を策定・実施するよう要請した。また、金融庁は2018年5月、3メガバンクグループを対象に「海外G-SIFIsにおける国際的な要求水準を踏まえた対応事項」(以下、3メガバンクグループ向けベンチマーク)を発出し、現状との差異の分析と当該差異を解消するための行動計画の策定を求めた。さらに金融庁は2019年4月、ガイドラインを改正し、金融機関等が「全ての顧客」についてマネロン・テロ資金供与リスクの評価を実施すべきであることを明確化するとともに、継続的顧客管理を通じて確認した顧客情報等を踏まえ、顧客のリスク評価を見直すよう求めた。

2015年に策定した当社の3ヵ年計画「AML高度化プロジェクト」(注12)は2017年度には予定通り目的をほぼ達成できたものの、その後も一段と強まる国際的な要請に対応するため、2018年1月に「FATF第4次対日相互審査対応プロジェクトチーム」を立ち上げ、金融庁の「3メガバンクグループ向けベンチマーク」に沿って、特にリスクベース・アプローチによる顧客管理の強化やコルレス先・外為受託先管理(注13)、貿易金融に関わる対策の強化を進めた。

さらに三井住友銀行は2019年6月、金融庁のガイドラインに基づき、継続的顧客管理の対象を全てのお客さまに拡大するとともに、お客さまのマネロン・テロ資金供与リスクを適切に管理することを目的にKYCシステムを新たに導入した。同時に、普通預金規定を改定し、預金者が各種確認や資料の提出等に応じない場合、預金取引を制限する場合があること、マネロン・テロ資金供与等の恐れがあると認められる場合には取引を制限できること等を明記した(注14)。同年7月には、お客さまの取引の内容、状況等に応じて、取引目的や取引内容、資産、収入の状況等について銀行窓口や郵便などを通じて再度確認する取り組みを開始した。質問票のお客さまへの発送や確認内容のシステムへの登録、お客さまからの照会対応などについては、「お客さまインフォメーションオフィス」を新設し、同オフィスが集中的に対応することとして、営業店負担の軽減を図った。

このようななか、2019年にFATFによる第4次対日相互審査が実施され、同年10~11月には審査団が来日してオンサイト・レビューが実施された。2021年8月、FATFは審査結果を公表、日本を3 段階中2番目の「重点フォローアップ対象国」(注15)とした。そのうえで、日本が今後優先的に取り組むべき行動として、金融機関等のマネロン・テロ資金供与対策に関する義務の適時かつ効果的な方法での導入・実施(注16)、リスクベースの監督の強化、マネロン・テロ資金供与に係る捜査・訴追の強化などを指摘した(注17)