(3)銀証連携による証券ビジネス強化
海外証券業務拡大にとって重要な契機となったのが、2013年5月の当社および三井住友銀行の米国における金融持株会社(FHC:Financial Holding Company)のステータス取得である。FHCは1999年に米国でグラム・リーチ・ブライリー法の成立によって導入された制度で、FHCステータスを取得した場合、その傘下において、より広範囲の証券・投資銀行業務等を行うことが可能となる。一定の要件を満たす銀行持株会社は、監督当局である米国連邦準備制度理事会(FRB:Federal Reserve Board of Governors)の認可により、FHCのステータスを取得することができる。
FHCステータスを持たない銀行持株会社は、国債やエージェンシー債(注20)などの適格証券の引受およびトレーディング業務に従事することは可能であるが、株式や社債等の非適格証券の引受・トレーディング業務に従事することができない。当社および三井住友銀行は、FHCステータスを取得するための3条件である、①優良な自己資本、②良好な経営状態、③地域再投資法(注21)に基づく良好な検査結果、をクリアし、2013年5月にFHCステータスを取得した(注22)。これによって、米国において証券子会社を通じた広範囲な業務への参入が申請可能となった。FHCステータス取得に加えて、2013年10月にはSMBC日興セキュリティーズ・アメリカ会社がサンフランシスコに支店を開設するなど、拠点網も拡充した。
FHCステータス取得後、積極的な顧客宛の営業活動もあって、米国証券子会社が三井住友銀行の非日系顧客から債券発行の際にコ・マネージャー(co-manager)(注23)あるいはブックランナー(注24)として引受シンジケート団(引受シ団)に招聘されるようになった。世界金融危機後、欧米の大手金融機関が業務を縮小したため、非日系大企業に対して日本の金融機関が取引を拡大する余地があったこともあり、2013年から非日系企業からの債券引受は急拡大した。また、銀行の顧客リレーションシップを活かして証券業務が拡大しただけではなく、証券取引を起点とした預金や為替・デリバティブ等の銀行取引の拡大にもつながった。
2014年度より始まった当社の中期経営計画では、国際部門は貸出偏重ではないビジネスモデルへの転換を表明し、海外証券業務の拡大による非日系顧客とのリレーションシップ強化・非アセット収益拡大を主要施策の一つとした。ニューヨーク拠点では、米国の三井住友銀行とSMBC日興セキュリティーズ・アメリカ会社の兼職者を増員し、銀行と証券の商品・サービスのクロスセル体制を強化した(注25)。欧州では、日本株引受や日系発行体による債券引受など、日本関連ビジネスが中心だったが、英国SMBC日興キャピタル・マーケット会社が三井住友銀行の欧州本部と協働し、非日系企業の引受案件にも注力した。
2013年のFHCステータス取得以降、非日系企業の債券引受業務が拡大したものの、引受幹事としての地位は引受金額の割当てが小さいコ・マネージャーやパッシブ・ブックランナーが当初、中心だった。このため、債券引受件数の増加に加えて、引受した債券の販売でより中核的な役割を担うアクティブ・ブックランナー、さらには引受業務での真の意味での主幹事たるトップレフト(注26)のレベルにまで当社の地位を引き上げることが海外証券業務における次の目標となった。
アクティブ・ブックランナーは引受の際に投資家に対する販売責任も大きくなる。このため、引受能力の強化や発行体とのリレーションシップ強化(=プライマリーの強化)と同時に、販売・トレーディング能力拡充、投資家開拓やリレーションシップ強化(=セカンダリーの強化)も必要である。米国では、発行体へのアクセス強化のため、銀証兼職者を増やしたほか、2015年にSMBC日興セキュリティーズ・アメリカ会社に投資銀行グループを新設して銀行と協働して付加価値の高い提案を実施することを目指した。また、投資家に対しては、セクターアナリストや社債トレーダーの増員、事業債等の自己勘定での保有残高増加、といった方法で取引拡大を狙った。欧州でも銀証間でのトレーニー派遣による人材育成のほか、SMBC日興セキュリティーズ・アメリカ会社の債券セカンダリー体制の整備を受けて、欧州企業の米ドル建債券引受の案件獲得を推進した。
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第1章不確実性が増す外部環境
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第2章新たなガバナンスの下でのグループ・グローバル経営の強化
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第3章「カラを、破ろう。」
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第4章「お客さま本位の業務運営」の徹底
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第5章リテール金融ビジネスにおけるビジネスモデルの変革
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第6章ホールセールビジネスにおける真のソリューションプロバイダーを目指して
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第7章グローバル・プレーヤーとしての進化
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第8章高まる不透明感の下での市場ビジネスの進化
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第9章アセットマネジメントビジネスの強化
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第10章デジタル戦略の本格展開
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第11章G-SIBsとしての内部管理態勢の確立
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第12章業務インフラの高度化
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第13章グループ経営を支える人事戦略
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第14章持続可能な社会の実現に向けた取り組み
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第15章「コロナ危機」への対応
- おわりに