(3)突如世界を覆ったコロナ危機

2019年12月、米中間の貿易協議が第1段階の合意に達し(注5)、長らく世界経済の重石となっていた、米中貿易摩擦に起因する不確実性が低下した。また、IT関連の世界的な在庫調整も進展し、今後、世界経済は回復に向かうと予想された。しかし、2020年1月以降に突如顕在化した、新型コロナウイルス感染症(以下、新型感染症)の世界的流行は、世界経済を急速かつ大幅に下押しすることとなった。

新型感染症は、2019年12月に中国で最初に確認され、年明け以降、感染が世界中に拡大した。日本政府は1月30日、内閣総理大臣を本部長とする新型コロナウイルス感染症対策本部を設置し、4月7日には、改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言を東京、大阪を含む7都府県を対象に発出、4月16日には、対象を全都道府県に拡大し、外出や社会経済活動の自粛を要請した。緊急事態宣言は5月25日までに全ての地域で解除されたが、この間、経済活動が大幅に抑制されるとともに、海外経済の落ち込みで輸出も急減した結果、2020年4~6月期の実質GDP成長率は前期比▲8.0%(注6)とリーマンショック時を超える過去最大のマイナス幅となった。

急速かつ大幅な景気悪化に直面し、日本政府は4月20日、事業規模117.1兆円の「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」を決定、4月30日に令和2年度第1次補正予算が成立した。これにより、家計向けの特別定額給付金や事業者向けの持続化給付金等の支援策、地域活性化に向けたGo Toキャンペーン等の財政措置、民間金融機関による実質無利子・無担保融資制度の創設等、総額45兆円規模の金融措置等が実施された。さらに、6月12日に第2次補正予算が国会で成立、事業者向けの家賃支援給付金等の創設や企業に対する資金繰り支援機能の強化等が図られた(注7)

日本銀行も2020年3月以降、金融市場の安定を維持する観点から、国債のさらなる積極的な買い入れや米ドル資金供給オペの拡充を実施し、円貨および外貨を潤沢かつ弾力的に供給したほか、資産市場におけるリスク・プレミアムを抑制するため、ETFやJ-REITの積極的な買入れを実施した。さらに、①CP・社債等の買入れ上限の引き上げ(残高上限:約20兆円)と②新たな資金供給手段を含む新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペ(注8)からなる「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム」を通じて、企業の資金繰りを支援した。

日本経済は2020年6月以降、経済活動の再開と各種政策効果、海外経済の改善に伴って持ち直し傾向に転じた。しかし、経済水準が依然としてコロナ前の水準を下回るなか、波状的な感染拡大が繰り返され、東京都では2021年1月、4月、7月に、それぞれ2、3、4回目となる緊急事態宣言が発出された。このような状況下、日本銀行は2021年3月、「より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検」に基づき、「貸出促進付利制度」の創設等を決定し(注9)、より持続的な形で「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続していく方針を明らかにした。

2021年6月以降、高齢者に対するワクチン接種が進捗し始めたものの、7月に入ると感染力の強い変異ウイルス「デルタ株」の流行を背景に新規感染者数が急拡大した(図表1-4)。これに伴って8月後半には重症者数が2,000人を超え、感染者や一般患者が迅速に適切な医療を受けることのできない「医療のひっ迫」問題が顕在化した。

図表1-4 2021年7月以降、新規感染者数は急増し感染拡大の「第5波」を形成
(図表1-4)日本の新規感染者数と重症者数の推移