(2)デジタルイノベーション推進体制の強化

2010年台半ば頃になると、いわゆる「Fintech(フィンテック)」と呼ばれるITを活用した革新的な金融サービスを提供するプレーヤーが多数現れ、金融・非金融の垣根を越えた競争が激化した。フィンテックに対する危機感と期待が交錯するなか、SMBCグループは、「金融業の未来は絶えざる自己変革と進化の先にあり、デジタル革命は新たな変革・進化を実現する大きなチャンス」と捉えるとともに、「デジタル戦略の成否が金融機関の10年後のポジションを決める」との認識に立ってデジタル戦略を強力に推進することとした。

具体的には2015年10月、三井住友フィナンシャルグループ(当社)と三井住友銀行は、「IT・ネットビジネス戦略クロス・ファンクショナル・チーム」を発展的に解消して「ITイノベーション推進部」をSMBCグループの「イノベーションハブ」として各々に設置(注2)した(当社と三井住友銀行の兼務体制)。同時に、グループベースのイノベーション戦略の明確化・共有化と最適資源配分を実施するため、ITイノベーション推進部とIT企画部、企画部、各業務部門、さらにグループ各社が参加する「ステアリング・コミッティ」を設置した。

ITイノベーション推進部は、オープンイノベーションの発想を採用し、「外部知見の積極活用」「異業種との提携等による新ビジネスモデルの追求」をより重視するとともに、金融サービスの企画立案から試作開発・実用検証までのサイクルを迅速化する「アジャイル開発のコンセプト」を取り入れて、ITを用いたイノベーションをグループ横断的に推進した。

さらに、フィンテックをはじめとする各種テクノロジーやスタートアップ企業の情報収集、発掘を行うため、当社は2017年4月、先進IT企業が集積する米国カリフォルニア州シリコンバレーに「シリコンバレー・デジタルイノベーションラボ」を設置するとともに、米国のアクセラレーター(注3)との提携やベンチャーキャピタルへの出資等を実施した。 

(写真)シリコンバレー・デジタルイノベーションラボの活動模様
シリコンバレー・デジタルイノベーションラボの設置

ITイノベーション推進部を当社と銀行の兼務組織と位置づけ、銀行から独立した組織・企業としなかった背景には、当社や銀行の組織とすることで、革新的なサービスやビジネスモデルの早期実装を図るというスピード重視の考え方があった。銀行本体から独立した組織とすれば、既存事業と競合する場合でも案件を前に進めやすい、ないしは、より多様な人材を集めやすいというメリットが想定されたものの、当社や銀行の内部組織であっても、トップダウンで業務変革を強力に推進し得るほか、中途採用の活用や働き方改革を進めることで、多様で優れた人材を獲得できる、との考えがあった。実際、ITイノベーション推進部は、キャリア採用を積極的かつ継続的に実施し、多様なバックグラウンドを持つ人材で構成される組織とした。

2017年4月にスタートした中期経営計画において、SMBCグループは、社会のデジタライゼーション(注4)が急速に進化するなか、様々な新しいテクノロジーを積極的に取り入れ、金融ビジネスに関するあらゆる領域でデジタライゼーションを推進していくことを明らかにした。そこで当社は、CxO制の導入を契機に、グループCDIO(Chief Digital Innovation Officer)を設置し、デジタライゼーションの推進に関わる基本方針の策定、体制整備、人事、戦略的投資や業務提携の承認等を所管することとした。これに伴い、従来のステアリング・コミッティに代えて、グループCDIOが主催する「CDIOミーティング」を随時実施することとした。

2020年4月には、本社部門にITイノベーション推進部、企画部デジタル企画グループなどを母体とする「デジタル戦略部」を、ホールセール事業部門に「法人デジタルソリューション部」を設置し、両部から構成される「デジタルソリューション本部」が統括する体制とした(図表10-1)。法人デジタルソリューション部は、法人向けデジタルプラットフォームの提供や大企業との共創プロジェクトなど、ホールセール分野のデジタルビジネス(新規業務、業務提携を含む)に関する企画立案、推進、管理、調査、開発等に従事する(注5)

図表10-1 グループCDIOをヘッドとするデジタライゼーション戦略推進体制
(図表10-1)当社のデジタライゼーション戦略推進体制