第11章
人材戦略とダイバーシティの推進

三井住友銀行頭取の國部は2011年4月の就任時、「経営における5つの指針」の一つとして「人材を育成し、自由闊達な銀行を創る」ことを掲げた。その背景には、金融機関の競争力の源泉は最終的には「人材」に尽き、本部や営業店、内外を問わず、専門性を高めた一人ひとりの力の総和が、お客さまや社会の金融機関に対する評価、信用を決めていくとの思いがあった。こうした観点から、当社グループ(注1)は人材育成に注力すると同時に、人材の多様性を競争優位の源泉にすべく、ダイバーシティの推進に取り組んだ。

1.業務戦略に応じた人材育成と人事運営の見直し

(1)グローバル人材および海外採用従業員の育成 

当社グループがグローバル展開を再び強化するなかで、日本においてはグローバルに活躍できる人材の不足、海外においては増加する海外採用従業員の人材育成と幹部層への登用による「海外拠点の現地化」が重要課題として認識されるようになった。そこで、2011年度にスタートした中期経営計画は、「総合職の語学力強化」「海外勤務経験者の拡充」「海外採用従業員のキャリアパス拡充」などの施策を打ち出し、①日本における「グローバル人材」の育成と、②海外採用従業員の人材育成および登用を、いわば車の両輪として進めることとした(図表11-1)。

日本におけるグローバル人材の育成については、三井住友銀行では、2010年度より、従業員の英語力底上げに本格的に着手し、総合職の英語力の期待水準として「TOEIC800点以上」を提示して英語学習を勧奨するとともに、本店ビル内に英会話を学ぶことのできるブースを設置するなどして、語学研修への派遣を大幅に増やした(注2)ほか、短期語学留学制度(注3)や内定者向けの英語プログラムの提供を開始した。また、海外拠点における日本からの派遣職員の増員や新興国トレーニー制度等を通じて、海外勤務経験者の人材プールの拡充を進めた。

図表11-1 2020年度末時点の海外勤務者数は海外採用従業員が大幅に増加したことで約3万人に達した
(図表11-1)三井住友銀行の海外勤務者数の推移
(写真)本店ビル内に並ぶ英会話ブース
本店内に設置された英会話ブース(2011年2月)

採用面でも、2011年度に「総合職グローバルコース」を新設した(注4)。これは基礎教育期間終了後、グローバルビジネス関連部署への異動を約束するもので、高い語学力を持つ人材を積極的に採用した。また、外国人留学生や海外における日本人留学生の採用も増やし、グローバル人材の増強に努めた。

2016年度以降、「海外拠点の現地化」推進の流れのなかで、国内においても英語活用の必要性が高まったことを受け、その後も、従業員の語学学習支援や内外人材交流、従業員向けの「グローバルセミナー」の開催、2017年度には新たな英語テストVersantを導入し、TOEICでは測れないスピーキング力を測定するなど、実践的な語学力の強化を継続的に実施した(注5)。こうした取り組みの結果、総合職の英語力は大幅に向上した(図表11-2)。

図表11-2 総合職のTOEIC平均点と 800 点以上取得率はともに上昇傾向を辿っている
(図表11-2)総合職のTOEIC平均点と 800 点以上取得率の推移

海外採用従業員の人材育成については、三井住友銀行は、2010年度に日本採用従業員と海外採用従業員が合宿形式で参加する「グローバルバンカー研修(GBP:Global Bankers Program)」をスタートさせ、業務スキルの向上や知識の習得に加え、内外の人材の交流を推進することとした。2011年度には海外採用従業員の期間1年もしくは3ヵ月の日本派遣プログラム(Japan Program)を、2013年度には管理職クラスを対象とする期間1ヵ月の短期日本派遣プログラムを開始した(注6)

2013年度には世界トップクラスのビジネススクール米国ペンシルバニア大学ウォートンスクールと提携した部長・副部長クラス向けの「グローバルリーダーシップ研修(GLP:Global Leadership Program)」を、2014年度には副部長クラス向け「グローバルマネジメント研修(GMP:Global Management Program)」を開講した(図表11-3)。こうした「GxP」と総称されるグローバル研修への累計参加人数は、2021年3月末時点で1,500人弱に達している(図表11-4)。そのほか、海外拠点における、新任管理職研修や経営理念(ミッション・ビジョン・バリュー)研修も開始した。

図表11-3 グローバルリーダーシッププログラム、グローバルマネジメントプログラム、グローバルバンカースプログラム、グローバルコワーカーズプログラムで構成されるグローバル研修
(図表11-3)グローバル研修「GxP」
図表11-4 グローバル研修への累積参加人数は右肩刈りで推移
(図表11-4)グローバル研修「GxP」累計参加人数の推移

海外採用従業員の登用に関しては、2012年度に海外採用従業員が初めて本店部長(ストラクチャードファイナンス営業部長)に就任したほか、2012年度よりグローバル人事会議を毎年開催し、人事部と海外拠点人事責任者が一堂に会し、人材育成や各種人事施策について議論することとした。

三井住友銀行は2014年4月、真のグローバル化の実現に向けた人事体制を整備するため、人事部内に「グローバル人事室」を設置した(注7)。これは2013年度第1回グローバルリーダーシップ研修における頭取宛提言が採用されたもので、グローバル人事室は、グローバル人材の育成とともに、海外採用従業員の情報を一元管理するデータベースの構築・整備、海外拠点の経営層に求められるコンピテンシー(行動特性、能力)項目の制定とその活用等を通じ、海外採用従業員の幹部人材の把握、ならびに雇用地を問わない適材適所の登用を行う枠組みの整備を進めた。これに併せて、海外各地域本部の人事関連部署にも兼務者を配置し、グローバルな連携強化を図った。

2021年1月には、グローバルバンキング部門担当役員や人事部担当役員等で構成される「グローバルタレント・マネジメント・カウンシル(GTMC)」を新設し、国内採用従業員を含めたグローバル人材の透明性ある登用プロセスの実現を図った。このような取り組みの結果として、三井住友銀行の海外拠点における部長職のうち海外採用従業員が占める比率は、2021年4月時点で35%と「海外拠点の現地化」が大きく進展した。また、執行役員に登用された海外採用従業員は2021年4月時点で11名と、2011年4月時点の2名対比大幅に増加した。