第11章
G-SIBsとしての内部管理態勢の確立

1.グループ・グローバルベースのコンプライアンス態勢の高度化

(1)グループ・グローバル管理の強化

2017年4月、三井住友フィナンシャルグループ(当社)がCxO制を導入したことに伴い、SMBCグループ全体のコンプライアンス機能の統括責任者としてグループCCO(Chief Compliance Officer)が設置された。これにより、グループCCOを中心とするグループ・グローバルベースのコンプライアンス態勢が一段と強化されることとなった。これまでも当社は、グループ全体の「コンプライアンス・プログラム」(コンプライアンスを実現させるための具体的な実践計画)を毎年度策定し、グループ各社がこのプログラムを踏まえて自社のコンプライアンス・プログラムを策定することとしていたほか、グループコンプライアンス委員会の開催やグループポリシーの制定、さらにはグループ各社の態勢整備支援など、グループ・グローバルベースでコンプライアンス態勢を整備してきた。しかし、CxO制の導入により、グループ横断的なコミュニケーションの頻度は増え、グループで協働する機会も増えた。

過去発生したリーマンショック等の世界金融危機や、金利指標不正操作等の欧米金融機関における不祥事の反省を踏まえて、とりわけ「グローバルなシステム上重要な銀行(G-SIBs:Global Systemically Important Banks)」のコンプライアンスやリスク管理態勢に対する金融監督当局の目線はますます高まる方向にあった。当社においても、グループ会社の増加やグローバル展開の進展により、多様なバックグラウンドを持つ役職員が増加し、グループ内で共有すべき価値観や奨励すべき行動を「目に見える形」で明示し、促進することが重要となった。

そこで当社は2017年12月、「コンプライアンス・マニュアル」を再構築し、「コンプライアンス及びリスクに関する行動原則」(以下、行動原則)(注1)および「コンプライアンス管理規程」を重要規程として制定した。行動原則は、コンプライアンスを含むリスク管理全般の「プリンシプル」および業務運営の指針として活用できる実務的ツールとして位置づけられ、「4つの目標」(注2)「20の指針」「60の行動原則」で構成される。2020年4月には「コンプライアンス及びリスクに関する基本方針」(以下、基本方針)と改称された(図表11-1)。基本方針の前文にはトップメッセージが掲載され、従業員に対し、必ず目を通し、コンプライアンスおよびリスク管理に関して当社が置かれた環境や取り組むべき姿勢等について理解を深めるよう求めた。「コンプライアンス管理規程」は、SMBCグループのコンプライアンス態勢の基本的枠組みを定めたもので、「3つの防衛線」(注3)の概念に基づき、一線(業務部門等)、二線(コンプライアンス担当部門)、三線(監査担当部門)のコンプライアンス・リスク管理における役割・責任を明確化した(注4)

図表11-1 4つの目標、20の指針、60の行動原則で構成
(図表11-1)「コンプライアンス及びリスクに関する基本方針」

トップメッセージ

現在の時代は、地政学リスクをはじめとして、これまで予想もしていなかった様々なリスクが顕在化するなど、先行きを見通し難い時代です。そうした環境下、SMBCグループが「質の高いグローバル金融グループ」として持続的な企業価値の向上を実現するためには、私たち役職員一人一人が臆することなく、「進取の精神」を持って、寧ろ果断に健全なリスクテイクを行い、チャレンジしていくことが重要です。

しかしながら、企業が社会と共生し、持続的に発展していくためには、コンプライアンスの確保を含め、適切なリスク管理が不可欠なことは言うまでもありません。コンプライアンス・リスクは、ビジネスに内在するものであり、コンプライアンス・リスク管理は常に意識すべき重要な命題です。とりわけ、金融機関は、その公共的使命と社会的責任の重さから、その業務の遂行にあたっては、一般事業会社以上に、コンプライアンス・リスク管理を重視する必要があります。

このため、SMBCグループでは、公共的使命と社会的責任を果たすべく、コンプライアンス・リスク管理の強化を経営の最重要課題として位置づけ、真に優良なグローバル企業集団の確立を目指し、その態勢の不断の向上に努めています。

コンプライアンスといえば、法令や内部規程の遵守が、まずは頭に思い浮かびます。しかしながら、近年、法令等に明らかに違反する行為だけでなく、金利指標の不正操作等の不祥事の反省から、我々の行動(コンダクト)に対しても、顧客や市場等に悪影響を及ぼしていないかどうか、社会や規制当局からより一層厳しい目が向けられるようになっています。このため、今や法令等の遵守だけでは不十分であり、顧客や市場等の金融機関に対する「期待」「要請」に確りと応えていくことも、広い意味でのコンプライアンスの内容となります。

その結果、これまで以上に、私たち役職員一人一人が、その行動が、法令等を遵守したものであるかはもとより、顧客や市場等の期待や要請に適っているかを、自ら考え、判断し、それに沿って行動することが求められています。

特に、業務部門等は、所管業務に関するコンプライアンス・リスク管理におけるリスク・オーナーです。これは、コンプライアンス・リスクは事業活動から発生するものであり、業務部門等自身が、第一義的なコンプライアンス・リスク管理の担い手であるという意味です。業務部門等は、自らがリスク・オーナーであることを意識して業務を行うことが極めて重要であり、事業活動において常にコンプライアンスを意識すると共に、主体的に行動原則の理念を実現していかなければなりません。

この「コンプライアンス及びリスクに関する基本方針」は、こうした目的から、皆さんが日々の業務に取り組む際の「拠り所」として、常に座右に置いて参照いただくために、策定したものです。我々の日々の行動が、ここに掲げる行動原則に適ったものか否かを常に意識し、業務に取り組んでいただきたいと思います。

SMBCグループが「質の高いグローバル金融グループ」として、持続的な企業価値の向上を実現するためには、私たち一人一人が、以上のような意識のもと、行動原則を具現化することが不可欠です。業務推進(リスクテイク)とコンプライアンス(リスク管理)が「車の両輪」であることを十分認識し、役職員一丸となって、日々の業務に取り組んでいきましょう。

2020年4月
三井住友フィナンシャルグループ
取締役 執行役社長 グループCEO 太田純

以上のように、当社は2017年4月のCxO制の導入等を通じて、グループ・グローバルベースの内部管理態勢を強化したものの、金融監督当局の目線が年々高まるなかで「グローバルなシステム上重要な銀行(G-SIBs:Global Systemically Important Banks)」に相応しいグローバルベースの管理という点では依然として課題を残していた。2019年4月、三井住友銀行と米国ニューヨーク連邦準備銀行は、三井住友銀行ニューヨーク支店におけるマネー・ローンダリング防止に関する内部管理態勢等が不十分との指摘に関し、改善措置を講じることで合意した(注5)。三井住友銀行ニューヨーク支店がニューヨーク連邦準備銀行からマネー・ローンダリング防止に関して改善措置を講じるよう求められたのは、2007年1月に続き2度目のことであった。

当社および三井住友銀行はこうした事態を重く受け止め、三井住友銀行は2019年10月、従来、米州本部長にレポートしていた米州の地域CCOが東京のグループCCOに直接報告する形にレポーティングラインを変更したほか、国際部門に所属していた米州コンプライアンス室を総務部の部内室とした。また、2020年4月には、グループCCOを専任にするとともに、コンプライアンス管理のグローバル統括機能強化を目的に、総務部からコンプライアンス関連業務を分割してコンプライアンス部を設置した。同時に、欧州コンプライアンス室およびアジア・大洋州法務コンプライアンス室をコンプライアンス部の部内室とし、米州以外の地域CCOもグループCCOへ直接報告する体制として、グローバルなコンプライアンス態勢を二線としてのコンプライアンス部が一元的に管理する体制を整えた。

世界金融危機以降、欧米金融機関における不祥事が相次いで明るみに出たことから、金融機関に対しては、法令遵守はもちろん、社会規範やお客さまの期待に沿った行動が強く求められるようになった。そこで、当社は2020年4月、「コンプライアンス及びリスクに関する行動原則」を改定し、コンダクトリスク(注6)に関する記載を追加した。また、2020年度より後述する「リスクレジスター制度」を本格導入し、一線の事業部門等におけるコンダクトリスクを含むコンプライアンス・リスクの自律的・継続的な特定とリスク・コントロールの強化を進めた。さらに、当社は2020年4月、経営理念を実現するために全ての役職員が共有すべき価値観である「Five Values」の一つに「Integrity」を加え、「プロフェッショナルとして高い倫理観を持ち誠実に行動する」ことを全グループ役職員に求めた。

三井住友銀行でも、2018年12月~2019年1月にかけて「コンプライアンス・リスク管理に関する意識調査」を完全匿名方式で全行的に実施したり(注7)、2020年度にリテール部門やホールセール部門の営業拠点および事務専門拠点におけるコンプライアンス・リスク管理に関する前向きな取り組みに対する表彰制度を創設したりして、社内におけるコンプライアンス意識の醸成に取り組んでいる。

図表11-2 SMBCグループのコンプライアンス体制
(図表11-2)SMBCグループのコンプライアンス体制(2021年4月時点)