5.海外ビジネスにおけるデジタライゼーションの推進

(1)アジアにおけるデジタルバンキング強化

当社はアジアの中長期的な経済成長を展望し、「マルチフランチャイズ戦略」を加速させてきたが、将来にわたるアジアの経済成長、人口増加、個人の所得水準の上昇、およびそれに伴う金融サービスニーズの増加を視野に入れて、アジアのリテール向けデジタルバンキングにも注力している。

三井住友銀行はBTPN(現Bank BTPN)への出資後、インドネシアにおける携帯電話・スマートフォンの急速な普及に合わせて、裾野の広いマス・マーケット向けに携帯電話、今後拡大が見込まれる中間層向けにはスマートフォンを使用したデジタルバンキングを推進することを主要な施策の一つとした。後に「BTPN Wow!」「Jenius」となるデジタルバンキングサービスの開発プロジェクトには、日本から三井住友銀行の従業員を2014年より派遣し、インドネシアにおけるデジタルバンキングのシステム開発・サービス展開について知見を蓄積する体制を構築した。

BTPNは、2015年にマス・マーケット向けにモバイルバンキングサービス「BTPN Wow!」の提供を開始した。「BTPN Wow!」は、公共料金の支払いや送金など、携帯電話を通じて安価かつ安全で容易な金融サービスを提供するものであり、利用者数は2020年12月末時点で480万人となった。「BTPN Wow!」が銀行口座を持っていなかった人々に金融サービスを提供することから始まったのに対して、「Jenius」はスマートフォンを利用した中間層向けの本格的なデジタルバンキングサービスであり、2016年8月からスタートした。「Jenius」はスマートフォンでカード決済および支払内容の管理、また銀行口座管理などが可能となるもので、サービス開始の翌年に利用者は100万人を超えた。2020年以降、新型コロナウイルス感染症の拡大により非対面金融のニーズが高まると、「Jenius」の利便性が一層評価されて利用者が急増し、2020年12月末時点の利用者は300万人を超えた。また、2020年9月には、起業家をサポートするスターター・キットとして「Jenius for Business」をローンチした。

(写真)Bank BTPNの「Jenius」のスマートフォン上の操作画面
Bank BTPNの「Jenius」のスマートフォン上の操作画面(2021年9月時点)

Bank BTPNによるリテール向けデジタルバンキングのノウハウは、他のアジア諸国における同サービス展開にも活かすことができる。2016年3月に、新興国戦略本部(シンガポール)に「アジアリテールイノベーショングループ」を設置したが、2017年4月には「アジアリテールイノベーション室」として同本部の部内室とした。リテール部門等との連携を通じて、引き続き「BTPN Wow!」や「Jenius」のシステム開発を支援するとともに、デジタルバンキングを活用したアジア地域におけるリテールバンキング業務のビジネス化を推進した。

2020年4月には、リテール分野のみならずホールセール分野のデジタル化に取り組むべく、「アジアリテールイノベーション室」を吸収する形で「アジアイノベーションセンター」を設置し、様々な銀行業務のデジタル化や画期的なデジタルサービスの展開を企画・推進した。2021年4月には、アジア・大洋州地域におけるデジタル戦略の推進・強化を目的に、アジアイノベーションセンターをアジア事業部からアジア・大洋州統括部に移管し、その部内室とした。