(2)制度改定のポイント

人事制度改定の主なポイントは、①職種の統合、②階層の統合、③生涯キャリアの充実、④エキスパート制度の導入の4点であった。

職種の統合

三井住友銀行では、業務分野の多様化や、従業員一人ひとりの働き方やライフスタルの多様化に対応するため、総合職や総合職(リテールコース)、BC職等の「職種」体系を構築してきた。その職種体系を見直し、BC職を総合職・総合職(リテールコース)とそれぞれ統合することとした。

図表13-2 BC職を総合職・総合職(リテールコース)とそれぞれ統合
(図表13-2)職種の統合

BC職はそもそも、2008年7月に、国内における一般的定型的な事務・業務推進、およびそれに付随する管理業務等の推進に従事する職種として新設された。しかし、近年は、AIやRPAに代表されるIT化・デジタル化の進展で店頭における定型的業務が縮小する一方、BC職に対する役割期待が高まるなかで、BC職のMC(マネーライフコンサルタント)が希望すれば外訪活動を行うことを可能とするなど、総合職(リテールコース)や派遣社員・スタッフ職(注2)等が従事する業務との違いが相対化しつつあった。そこで、BC職と総合職・総合職(リテールコース)の職種を統合し、BC職が意欲と能力次第でより一層高度で責任のある業務に挑戦できる制度とした。これにより、フィナンシャルアドバイザー(FA)やウェルスマネジメントバンカー(WMB)、法人営業にチャレンジできるようになり、部長や支店長といった管理職へのキャリアアップも可能となった(注3)

階層の統合

若手登用を加速させるとともに、職務や貢献度に応じた公平な評価・処遇を実現するため、従来6つあった役割期待に応じた「階層」を3つに統合した。従来は、管理職ポストに就くためには、一定の階層に到達している必要があったが、階層の統合でより思い切った若手の抜擢が可能となった。また、多様な働き方を応援するため、勤務地制度を変更し、総合職であっても、ライフイベントに応じて一時的に勤務地を選択できる制度を導入した。総合職(リテールコース)においては、従来あった全域型と地域型の区分を廃止し、希望に応じて隔地間転勤を行う場合に手当を支給する制度を導入した。

生涯キャリアの充実

1990年前後のバブル期における入行者が50歳代半ばに到達し始めるなか、高い能力と豊富な経験を持つ「シニア人材」が行内でより長く活躍できるよう、定年を60歳から65歳に延長するとともに、評価・処遇体系を見直した。従来は、50歳代前半で銀行外部に転籍、ないしは55歳で年収が大きく下がる仕組みとなっていたが、長期的なモチベーションの維持向上、および急激な年収の減少による生活面への影響緩和を目的に、年収カーブを見直した。また、シニア人材のキャリアの選択肢を増やすため、シニア向け公募を拡充するとともに、60歳以上の従業員を対象に副業を容認するデュアルキャリア支援制度等を新設した。

エキスパート制度の導入

上記3つの改定に加え、2020年1月、専門性の高い人材を処遇する枠組みとして、「エキスパート制度」を導入した。具体的には、高い専門性を有し、その専門性を当該分野の業務で発揮する人材を「エキスパート」として認定し、専門性のレベルに応じた一定の手当を支給するとともに、原則として当該分野でのキャリアを保証することとした。これまでも専門人材処遇制度はあったものの、一定以上の年次の人材を対象としていた。本制度の導入により、高い専門性を持った人材を若手・中堅のうちから適切に処遇することができるようになった。

三井住友銀行は、別途、企業年金制度(確定給付年金)の改定も実施し、2020年6月1日に新制度に移行した。マイナス金利政策の長期化に伴う運用利回りの低下や平均寿命の伸長など、制度を取り巻く環境が変化し、実勢と給付ルールの乖離が拡大していたことを踏まえたもので、給付利率(注4)を年4%固定から実勢金利に応じて変動するよう変更した。また、平均寿命の伸長を踏まえ、年金受給の保証期間(注5)を15年から20年に延長した。

三井住友銀行のみならず、SMBC信託銀行やSMBC日興証券、三井住友カード、SMBCコンシューマーファイナンスも相次いで人事制度を改定し、成果や役割貢献に応じた処遇の実現、キャリアパスの拡充等を実施した。